ニューヨークのDigital Book World (DBW)では、米国市場に関する様々な見方を知ることが出来る。市場が新旧2つ(あるいはそれ以上)の世界に分断され、全体が見えなくなっているだけに、断片の情報とそれについてのメタ情報は貴重なものだ。出版産業シンクタンク Codex Groupのピーター・ヒルディック-スミスCEOが消費者行動における価格の影響について論じている。
本の読み方/買い方はじつに多様である
同氏が強調するのは、本を読むことと購入することは必ずしも結びついていないということだ。地元の図書館の貸出を利用するかもしれないし、友人から借りたり、無償ダウンロードを利用することもある。古書を購入したり、ギフトとして貰ったり、定額サービスで読むこともある。「購入」方法も多様なのだ。ヒルディック-スミス氏の推定では、読まれた本の総数の中で著者や出版社の収入につながるのは3分の1にすぎないという。したがって、人によって「価格」の持つ意味は多様に変化する。
コーデックス社の調査によれば、個人的な読書のための本の入手方法として、無料本を好む人が18%、新本を定価で買ったことがない(つまり古書ばかりの)人が26%、E-Bookのみという人が16%で、なるべく安く買うようにしている人が18%で、気に入ったら衝動買いをする人は22%となっている。本を買うという行為は、なぜかそう軽いものではないようだ。出版関係者は「コーヒー1杯」「ランチ1食」と安さを強調するのだが、ほとんどの人にとって、知識欲を食欲と比較するのはあまり意味がない。そして本による満足に関しては人は厳密であろうとする傾向がある。「失敗」の「リスク」を怖れて慎重になるのだ。この心理学は重要だと思うが、これまであまり注目されていないと思う。
誰に読んでほしいかを考えよ
本という商品は、衝動買いも多い一方で、考えれば考えるほど慎重になる。最も衝動買いが起きやすいのはE-Bookを中心に読む層で、次いで書店での「直感買い」、さらに「割引重視」が続く。他方で、遅いのはバーゲン狙い。購入速度はジャンルによっても異なり、衝動買いはむしろノンフィクションが多いそうだ。自分が必要としている、あるいは自分に関係があるような気がして買うということで納得できる。
ヒルディック-スミス氏は、出版者や著者に対して、価格を決める場合には「あなたの本を誰に買って欲しいのか?」という要因を重視するようアドバイスしている。読んでほしい人であれば、たとえ無料であっても、売上の増加に影響を与えるからだ。「知っている人が読んで評価した本」であるという要素はとても重い。それはつまらない本を買うかも、という警戒心を解く決め手になるからだ。伝統的なメディア書評にしても、多くは著者・出版社に献本された関係者に褒めてもらうために使われている。ブックとSNSはそれをよりダイナミック、あるいは低コストで、計画的に行うことを可能にした。価格はマーケティングの重要な要素だが、「誰に」を考えなければ意味を失う。◆ (鎌田、01/26/2017)
- The Impact of Pricing on Book Buying Behavior, By Beth Bacon, Digital Book World, 01/23/2017
- 5 Questions with Peter Hildick-Smith, CEO, Codex-Group
By DBW, Digital Book World, 01/11/2017