「アメリカの読者は「恋愛」好き、英国の読者はより「殺し」好き」と言われるほど、「恋愛」本がリードするアメリカの出版市場で、All Romance E-Books (ARe)というオンライン書店が著者と出版社に損害を与える最悪の形で倒産した。経緯と法的側面はThe Passive Voiceがていねいにフォローしており、読みごたえがある。
ネットビジネスは簡単でない
The Guardian (01/04)によれば、AReは2006年以来、英語圏の5,000あまりの著者、出版社の書籍を販売する専門ストア。閉鎖3日前の予告という唐突なもので、12月27日までの4Q販売分の版権料清算は10%とすると「通告」している。AReは版権料滞納を続けていたようで、かなり悪質な事例と言える。またユーザーは、すでに購入したクレジットやギフトについて3日間のダウンロード期間が設定されている。関係者はこれを「犯罪」として告発する手続きを取った。すでにサイトは接続不能で、経営者も他人のアカウントでメールを発信して以来消息を絶っている。ロマンスと言うよりミステリだ。
AReは2014年までは業績拡大を続け、急速に悪化したとされる。しかし、書店が直近に販売した本の清算が出来ないという状態は、それ以前からの契約違反を推定させる。2015年以降、米国市場統計でのE-Book販売は下降を続け、2016年前半では20%あまりとされる。結局、アマゾン以外はほぼこの下振れの影響を逃れられず、ロマンスもその例外ではなかったようだ。足腰を鍛えないままにブームに乗って成長してきたAReは、ひとたまりもなかったということになる。
一見簡単そうに思われたオンラインでのブックビジネスは、技術的にもマーケティング的にも奥が深く、書店にも劣らない難しさがある。最大の困難は、環境の変化による影響を予測できないことにある。アマゾンの強さは、市場の性格と環境変化を予測し、より精緻でバランスのとれた方向に拡張していくところにある。著者と読者を裏切らないのも、工学的な管理があればこそである。◆ (鎌田、01/03/2016)