出版とWebの融合を考える

web publishingIDPFとW3Cの合併がようやく発効したが、デジタル出版の標準化とWebでの出版の標準化の活動が統合されただけで、そう喜んでいるわけにはいかない。在来の出版ビジネスのデジタル転換は停滞しており、何よりも商業出版社に戦略がなく、方向性を見失っている。何がしたいのか、するべきなのかを知っていないと、EPUBは使えないし進化もしない。

アマゾンの勝利をどう受け止めるか

IT系の人はWebと出版の統合/融合を軽く語る傾向がある。他方で出版系の人はその進行と結果に懸念を持っている。本誌が合併に対する反対論と推進論を紹介したのは、前者を軽視すべきでないと考えるからだ。土壇場の論争で問われたのは「本/出版とは何か、どう発展させていくべきか」という本質だったと筆者は理解している。しかし、残念ながらこの問題については議論は深まらなかった。マッコイ氏は「出版とは商業出版だけではない」と指摘したが、何が違うのかを共有されなければ、意味は理解されないだろう。客観的に見て時間は切迫しており、これまでに有効な議論の積上げが欠けていた。

Bezos01本誌連載中の「米国出版市場の全体像」は、デジタル転換の過程で生じた市場の分裂と歪みを明確に示している。オンラインの勝利とアマゾンの独走、在来出版の衰退ということに要約できるのだが、そこでは、20年かけて進行してきたWebの拡大に乗ったアマゾンと、乗れなかった旧出版界(出版・流通)が対比されている。伝統的な「業界」や「ビジネス」の枠外からプロセス(サービス)を発想する「ネット企業」のアマゾンは、印刷本のオンライン販売から出発して必要なインフラを自前で構築していった。「ビジネス」とはプロセスとルールとして理解できるが、在来企業には組織(ヒト)がプロセスとルールを硬直させている。顧客データベースとロジスティクスを駆使したサプライチェーンは、ゼロからの発想の利点を実証している。

出版における「アマゾンの勝利」をもたらした状況に関する筆者の認識は以下のようなものだ。

  1. 出版界で進行しているデジタル転換は、社会基盤のデジタル転換の一側面である。
  2. それは1970年代の制作、流通に始まり、本じたいのデジタル化で最終局面に入った。
  3. インターネット・パラダイムは、個々のプロセスのデジタル的結合/再構成を意味する。
  4. Webはハイパーテキスト型コミュニケーションであり、もともと本/出版を包含している。
  5. オープンな出版はアマゾン的エコシステムを超える方法を示すものでなければならない。

インターネット時代の「本と出版」の再構築へ

DP-Hypertextコマース20年、Kindleの8年を経て、アマゾンの勝利は明確になった。アマゾンは出版流通(つまり決済)の大半を掌握している。同社はコンテンツの完全デジタル化を目指しているわけではないが、著者のレベルでのデジタル転換は自動的に進行し、印刷本においてもアマゾンのソリューションに依存するようになるだろう。出版社が自前でフルフィルメントを持つのがいかに非現実的かは間もなくわかるだろう。ロジスティクスこそデジタルの先端であり、アマゾンの強味はそこにあるからだ。アマゾンの最も強いところで勝ち目がないのは言うまでもない。

open_0出版社が勝負すべきなのは「出版」であってロジスティクスなどではない。投資すべきは不動産ではなく、制作プロセスとマーケティングであり、守るべきは著者と読者であって経年劣化したプロセスやルールなどではないだろう。いま「出版」とは何をすることなのか。問題はやはりそこに行き着く。米国でも日本でも、出版社は深い闇を彷徨っている。

このままでは、アマゾンと自主出版を中心に出版のデジタル転換は進むが、それは機能的、サービス的に偏ったものとならざるを得ない可能性が高い。つまり、標準としてのEPUBの役割は拡大せず、本の基本的形態 (ガラスの下の印刷物=Print Under Glass)は変わらず、アマゾン(KFX)とその他のサービス(EPUBベース)の間の「中間フォーマット」として命脈をつなぐことになるだろう。それではWebベースの「オープンな出版」の理想からはほど遠い。

拡張E-Bookには大いに期待がかかる。しかし、「拡張」技術自体は30年前から存在していた。それが普及しなかった理由は、商業出版社と製作者と販売者と読者の間に、拡張E-Bookをめぐる持続的なビジネス/プロセスが成立しなかったこと、そして在来出版のそれとあまりに違っていたからだ。この点はなかなか理解されていないが、対話的インタフェースを含むデジタル・ネイティブなコンテンツは、今日までほとんどの人が「本」として認識してきたものとは性質が異なる。

web_pubW3Cの出版コミュニティは、次世代EPUBのアイデアを集めるより前に、本と出版についてのコンセンサスを得ることを先行させるべきだ。それこそが「オープンな出版」が成功するための前提となるだろう。「オープンな出版」を軽く語ってはならない。これまでの出版のどこが問題で、何をオープンにしなければならないのかが共有されないうちは、EPUBは進化しない。

Webは必要条件ではあっても、十分条件ではない。現にWebを最も効果的に利用し、その上に独占的地位を固めているのはアマゾンなのだ。  (鎌田、02/09/2017)

Scroll Up