日本についての発表はまだないが、Koboは定額制サービス Kobo Plusの提供を一部で開始した。執筆時点で確認できたのはオランダ、ベルギーだけで、各国のサイトで順次立上っていくと思われる。定額制サービスのニーズとリスクに関しては様々な事例で知られるようになったが、Koboの遅れたスタートは定額モデルの必要性が認識されたことを意味すると思われる。
後発のメリットを生かせるか
オランダのサイトで提供可能と発表されたサービスは、価格が月額10ユーロでタイトルは32,127点になっている。英語が20,320点で日本語が4点だけある(翻訳もの)。おそらくタイトルによって複数のサイトで利用可能にしているものと思われる。これが販売モデルにおける地域出版権と関係があるのかどうかはわからない。すでに自主出版プログラムの Writing Lifeのパートナー向けダッシュボードには"Kobo Plus"が出ている。
アマゾンKindle Unlimited (KU)は2014年7月にスタートして2年半ほど。会員数も会費収入も不明だが、公表された2016年の版権料支払総額は2億ドルあまりで、楽天がKobo買収に支払った金額に匹敵する。それに見合う収入を上げるようになる可能性はあるだろうか。
遅れて立上げたのは、準備というよりは、このモデルについての課題や見通しの不透明さがあったものと思われる。アマゾンは、試行錯誤を伴いながら、PrimeとKOLという無償貸本プログラムと連動させた版権料支払原資の月別プール制と、利用ページ単位の支払い(国ごとに異なるKENPC)という複雑なモデルを段階的に構築した。基本的にはKDP契約の版権者を対象にしたもので、エコシステムの全体的バランスと持続性を最優先した結果と思われる。Oysterは出版社からの契約を得やすい条件を優先して失敗した。Scribdは対象コンテンツと契約条件でなお安定していない。他方で、大手出版社でこのモデルを支持するところは少ない。
版権者との契約モデルに注目
Koboはアマゾンと同じく、自主出版のKobo Writing Life (KWL)の著者たちを重視しているが、KWLとの結びつきは強いようで、そのためにPlusが必要になった可能性もある。
新しい売上機会、販促機会に敏感なKDP契約者が多いアマゾンが成功したのは、堅固なプラットフォームの上で、オペレーション上の調整機構が何層も用意してあったからだが、それでもページカウント+KENPC方式というかなり苦肉(?)の策に見える算定方式で乗り切ったほどだ。定額制は見かけの安定性とは逆に、運用の細部での創造性が必要な、癖の強いビジネスモデルであるようだ。Koboも時間をかけた分、システムの設計は周到に刺されたとは思うが、版権者との契約は非独占で条件はアマゾンよりも気前が良いらしい、と噂されている。Kobo Plusが順調に著者・出版社・読者のための新しいチャネルを開拓することを期待したい。◆ (鎌田、02/23/2017)
P.S.
英文リリースが23日に発表された。また契約モデルに関する情報もThe Digital Readerに公表された。これについては次号で検討してみたい。
- Kobo Plus Does Not Require Exclusivity, Pays Out Shares of a Limited Funding Pool, By Nate Hoffelder, The Digital Reader, 02/22/2017