Kobo Plusの版権料支払いのルールが徐々にわかってきた。先行サービスの「クラッシュ」事例を踏まえた安全第一のもので、不安はないものの、出版者と読者の期待と満足を得るには、コンテンツの集め方、見せ方などで他にない独自のテイストをつくる努力が必要だ。オランダ語圏でのスタートは、慎重姿勢を反映していると思われる。
基本的にはアマゾンと同じ清算方式
Koboの支払い条件は、基本的にアマゾンのKindle Unlimitedが2015年7月から提供しているものに近く、ページ数カウントに基いて、有限の基金の中から支払う。収入の範囲で支出するのは、持続性という観点からみて妥当な選択といえる。出版者は最低6ヵ月以上Kobo Plusに置いておく必要があるが、独占契約は求められていない。以下にKobo Writing Life (KWL)のページで公表されているKobo Plusの約款の要点をまとめてみた。
- 「基金」はKoboがサービス提供地域のユーザーから得た月間会費収入から税金を引いたもの。
- 「読む」はユーザーが対象書籍の20%(前付けを除く)を読んだとKoboが判定すること。
- 「サービス区域」は、定額制サービスを提供することが出来る地域
- 「購読制(定額)サービス」は、ユーザーが月額固定料金でコンテンツに無限回アクセス出来るもの。
- 「読書活動の対価」(“Reading Activity Value” )は、個々の定額制コンテンツが当該月内に読まれた回数を販売用表示価格で乗した金額。
- E-Bookの追加と撤去:出版者は、登録する場合は6ヵ月以上継続、撤去の場合は30日以上前に通知することが求められる。
- 版権料の支払:Koboは毎月末に版権料の精算を行い、90日以内に支払う。これには読者の無料試読期間に読まれた分は含まない。撤去以前にユーザーがダウンロードしたコンテンツは契約失効後120日間は読むことが出来る。この場合にKoboの支払義務は適用されない。
英独語市場と近いオランダ語圏でのスタート
先週も述べた通り、定額制というビジネスモデルは、微妙なバランスの上に(のみ)成り立つものだ。単独の事業としてはほぼ成り立たず(Oyster)、アマゾンでさえ、何度も修正・調整(日本では「炎上」)を経ているほどだから、アルゴリズムの手直しでは済まないのだろう。
著者・版権者とユーザー(会員)、プラットフォームの三者の均衡は、会員読者とコンテンツの関係(消費行動)によってダイナミックに変化する。Kobo Plusの場合、毎月の支払は会費収入のプールの範囲内なので、OysterのようにKoboが収支のアンバランスでギブアップする心配はないが、出版者とコンテンツが少ないと会員収入は増えず、プールに水は溜まらないので出版者のモチベーションは上がらない。Koboを使うと、そのタイトルはアマゾン独占契約の対象外になるので、出版者がKobo Plusと同時にKUを利用することが出来ない。したがって、対象となる出版者は、KUを利用しない個人出版者(≒KWL利用者)か商業出版社だ。後者はKindle/Unlimitedを嫌う出版社が中心になるだろう。数としては少なくないかもしれないが、市場への影響は米国では大きくない。それもあってヨーロッパで始めたのだろう。
Kobo Plusが先行的にスタートしたオランダとベルギー北部は2,300万人あまりの言語市場を形成するが、重要なことは「最も英語圏に近い大陸欧州」ということだ。スウェーデンなどとともに、最も英語力が高い地域で、8~9割は英語を話せるから、英語コンテンツ市場でもあるはずで、英語読者、英語圏の出版者にとっての魅力はあるだろう。なお日本については別に考えてみたい。◆ (鎌田、02/28/2017)