数百の出版社と契約し、印刷本の購入者がアプリを通じてE-BookとA-Book版のバンドリング割引コードを入手できるサービスを提供していたカナダ・バンクーバーのShelfieが1月末で閉鎖された。プラットフォームを背景にしないビジネスモデルには限界があった、と創業者は述べている。なお、Koboが同社を買収する可能性があると噂されている。
印刷本の画像からE-Bookを探し出す技術
Shelfieは、E-BookベンチャーのBit.litが2013年に立ち上げたビジネスで、本誌でも何回かフォローしている。専用アプリをロードしたスマートフォンで本の表紙を撮影→サーバに送信→リスト照合→確認・決済→ダウンロードという一連のプロセスをサポートする技術で注目された。Shelfieも、本棚のシェルフと「自撮り」のセルフィーを合成したもので覚えやすい。しかし、ITベンチャーによくあるように、同社は明確なビジネスモデルのイメージを持たず、マーケティングの体制も用意していなかったようだ。おそらく、使い方は出版社とユーザーが考えるだろうという甘い見通しを持っていたものと思われる。
印刷本とE-Book/A-Bookのバンドリングあるいはマッチングは、すでにアマゾンがメニューとしている。これも重要な顧客サービスの一つだからだ。他方で、出版社はタイトルとその読者を持っていても、IDとしてつながっているわけではない。読者のほうから接触してくるのを待つしかない。多くの出版社は、B2Cマーケティングの経験がなく、体制もない。Shelfieには関心を持ち、期待はしても、読者とのチャネルとして使うイメージがあったようには思えない。こちらも甘いのだ。これでは前に進まない。ネット・ビジネスでは、技術的な仕掛けは入り口にすぎず、顧客との対話を通じて「価値」を発見し、創造し、発展させていくプロセスのデザインと管理(UI/UX)がないと機能しない。
マーケティングの欠如
印刷本のオーナーでデジタル版が欲しい本あるいは人はそう多くはないが、日本でも手間暇かけてまで「自炊」をする人がいたように、一定数は存在する。Shelfieは主に理系・教育系の出版社と提携しながら対象を広げていた。コンテンツはブックマーク、ノートなどで使うためにあるのでそれは当然だろう。それはソーシャルに「シェア」することとも関係してくる。しかし、デジタル読書がとくに意味を持つのは、個人やグループでの読書環境に関わる部分で、そこでのニーズを開拓するには別のマーケティングが必要だった。
の画像認識とバンドリングの技術は、それだけではユーザーにとっての価値を訴求出来なかった。商業出版社がE-Bookの位置づけをいまだに理解できず、マーケティングも進化していない、という「不運」もあったが、有用な技術を生かせるプラットフォームとビジネスモデルを持っているのがアマゾンだけでは、出版ベンチャーは消えていくしかない。◆ (鎌田、02/07/2017)
参考記事
- Shelfie goes out of business tonight, By Chris Meadows, TeleRead, 01/31/2017
- Audiobook and e-book bundling App Shelfie is closing, By Michael Kozlowski, Good eReader, 01/31/2017
- The Failure of Print and E-Book Bundling, By Bill Rosenblatt, The Digital Reader, 02/06/2017