本誌は2014年以来、Author Earnings (AE)の四半期レポートを欠かさず取上げてきたが、それは変則的ながら、オンライン世界で起きていることを知る唯一の方法であり、しかもプロフェッショナルで一貫しているからだ。2014-15年に起きた米国市場の変動によって、データの価値は実証されたのだが、まずは経緯を振り返ってみたい。
「出版社売上+書店POS」では市場が見えなくなった
米国の出版市場統計は、ほぼ2014年を境に不透明度を増し、2015年には「見えない市場」が誰にも意識されるようになっていた。2014-15年に大手出版社のE-Book価格引上げが行われ、既存の統計に捕捉される商業出版社のE-Book売上が上昇から下落に転じ、Nookも同様だったのに対して、他方で市場の7割以上を占めるアマゾン(Kindle)の売上がそれに追随する兆候を見せなかったからだ。逆に自主出版E-Bookの伸びが(成功したインディーズ作家によって)伝えられた。
会員出版社の卸販売額を集計するAAPの統計、ストアのPOSデータを集計するニールセンの小売統計で見えないのは、数字を発表しないアマゾンKindleなどでのインディーズの販売額である。しかし、これについては公表データ(販売ランキング)と版権者が受取るレポートの数字(販売実数)との相関を追跡することで販売部数、販売金額を推計し、外形的に推認するという方法が可能である。データ・ガイは、ゲームアプリ市場での経験から、オンライン市場ではこの方法が伝統的な市場統計に置換えられることを知っており、AuthorEarnings (AE)でE-Book市場の分析を行ってきた。既存の調査機関は、出版業界の常識(「出版社が発行した本を書店が販売するのが出版である」)から離れることが出来なかった。
21世紀出版市場の全体像が見えてきた
著者にとってのビジネスモデルとしての自主出版の選択を支援する目的で、AEがチャネル別の著者実収金額(+販売部数)のレポートを無償公開したことで、「見えない市場」について多くのことが分かってきた。自主出版の規模、ジャンル別内訳、著者にとっての優位性、価格と販売の相関、アマゾンのKindle事業の規模、そして在来出版の凋落…といったことだが、それだけに留まらなかった。AEレポートはアマゾンの印刷本販売についても、その規模、発行主体別のシェアも明らかにした。それによって、これまでは全く別のものとして考えられてきた、E-Bookと印刷本、自主出版と在来(出版社)出版の関係をも明らかにしたのである。
データ・ガイは、これまでの解析で、新たなデータから合理的に推論できることを発表してきたが、その事実に対して業界内外の反響は鈍かった。去年の今頃、新聞まで賑わせた「印刷本復活!」のファンファーレは、後世の笑い話になるだろう。「ほとんどの場合、人間は、自分が望んでいることを喜んで信じる」(ユリウス・カエサル『ガリア戦記』)例証の1ページとして。
前回述べたように、データ・ガイは、(a)出版形態、(b)フォーマット、(c)出版分野、(d)販売チャネルの4つの軸で出版市場(発行部数、販売部数、販売金額)で定量的に計測(推計)し、構造変動を時系列で見ていくという手法を採用し、調査範囲を拡大・進化していくというスタイルで一貫している。これはハッブル宇宙望遠鏡のようなもので、地上の天体望遠鏡による観測では見えないことが見え、(遠方の銀河のブラックホールや宇宙の膨張など)分からないことが分かる。インターネット空間から得られたAEの観測システムは、膨張を続ける出版を知るために不可欠なものとなった。◆ (鎌田、02/02/2017)