米国では、出版社が出版する在来出版の世界のほかに、インディーズによる自主出版が台頭し、オンライン世界で優勢になった結果、在来統計で捕捉できない市場が生まれた。AEは、その「見えない市場」を定量的に可視化することで初めて「全体像」を提示した。非在来出版の規模は2億9,700万冊、12.5億ドルで、在来出版と同じ桁数に達している。
在来出版社はオンライン販売に依存している
前回は在来出版の部分だが、印刷本の41%がオンライン(Web)で販売されており、すべてオンラインで販売されるA-Book、E-Bookと合わせて、すでにオンラインは全出版物流通の過半を占めているというのは十分に衝撃的な事実と言える。なぜならそこは言うまでもなくデジタルと同じくアマゾンが大半を占めるチャネルだからだ。
これまで、出版界とメディアは印刷本のオンライン比率はあまり問題にせず、結果的に(たぶん)印刷本=実書店というイメージが損なわれないように見せていた。大出版社の強さはB&Nを筆頭とする大手流通への交渉力にあり、そのために中堅出版社の吸収とメディアグループとの合併を繰り返して肥大化した経緯があるので、大書店あっての大出版社なのだ。しかし、オンラインがチャネルとして優勢になれば、大書店での有利なスペースを背景にした大出版社の力も相対化される。B&Nの凋落は大出版社の外堀が埋められたことを意味する。
在来出版による全フォーマットのジャンル別販売部数を比較したデータを見れば、オンラインのシェアがすでに書店を圧倒するまでになっていることが分かる。印刷本においてさえ、実書店が強いのは成年向けフィクションのみ(8割)であり、ノン・フィクションではすでにオンラインが過半(6割)を占めている。大人向けの本の実書店のシェアは55%あまりで、優位はかなり小さい。そして、3フォーマットを合計した全体では、成年向けノン・フィクションの69%、同フィクションの63%で、すでにオンラインが主流(3分の2)に取って替わっている。在来出版社でさえ、オンライン(≒アマゾン)への依存は顕著だ。
10億ドルの大台を超えていた非在来出版
ではAEのみが推計している非在来出版(インディーズ+アマゾン)のフォーマット、チャネル別実績はどうか。データ・ガイは、3フォーマットを合計した2016年の市場規模を12.5億ドルと推定している。E-Bookの販売部数は2億407万2,000冊、5億9.5899万ドルで、平均価格は2.92ドル。かつて1ドル台だった平均価格は、アマゾンが一般的に推奨している3~10ドルのレンジに近い、プロモーションで割引されることがあっても3ドルに近いのは、インディーズ本のほとんどがビジネスを目的としたものであることを示している。そしてアマゾン出版のE-Bookが6千万冊、2億5,799万1,000ドル(平均価格9.6ドル)というのにも驚く。A-Bookが1億2,750万6,000ドル、印刷本の920万5,000ドルと合わせて3.95億ドルと4億ドルに近い。アマゾン出版は(ほぼ自社チャネルのみで)大出版社と肩を並べる存在になった。
非在来出版の出版物市場は、全体で2億9,700万冊、12.5億ドル。ほぼすべてがアマゾンのオンライン・チャネルを通じて販売されたものだ。それが在来統計から漏れる理由は、アマゾンが数字を発表せず、またISBNをIDとして採用していないものが少なからずあるためだ。AEは、アマゾンが販売するE-Bookの部数にして43%、金額にして24%(5.5億ドル)がISBNを取得していない。つまりAmazon Standard Identification Numbers (ASINs)のみをIDとしている。オンラインの世界ではアマゾンが標準ということだ。ただし、印刷版があるもの、価格が相対的に高いものほどISBNの取得率は高い。
大出版社が、全体としてオンラインとデジタルが主流の出版市場の中にあり、しかもデジタルでのシェアを失いつつあることに危機感を持たないとすれば、無責任というしかない。◆ (鎌田、02/09/2017)