試行錯誤をしながら定額制サービスのメニューを増やしているScribdは、約10紙ほどの高級紙と提携して、新聞記事の提供も始めたが、Publishers Weekly (05/23, By Calvin Reid)の記事で、トリップ・アドラーCEOが初めてユーザーの数字に踏み込んで語っている。それによると、有料会員は50万人に達し、採算性を確保したという。
雑誌・新聞記事の提供も「本との出会い」のため
Scribdは昨年秋、雑誌コンテンツを追加したが、月額9ドル ($8.99)は変えなかった。今回、The New York Times、The Financial Times、The Wall Street Journal、The Guardianなど12紙の記事を加えた。これは本格的なニュース情報の提供を目指すのではなく、本と読書のための厳選されたコンテクストの提供という観点で行われている。
つまり、Scribdがフォーカスしているのは、新聞や雑誌が伝統的、直接的に本を紹介してきた書評よりは、様々な分野の論説、評論、ルポルタージュのほうだ。書評だけならば、記事をインデックスし、リンクを付ければよいが、重要と考えるのはそれ以外の記事のほうで、これらはほぼ例外なく、なんらかの本の著者たちによって書かれ、あるいは複数の本への直接間接の言及がある。Scribdは、人が特定の本を読みたくなるセット(場の設定)とセッティング(お膳立て)を重視しているのである。これは非常によく考えられており、そのためのサイトやUI/UXの再設計を含んでいるというから大いに期待できる。
UI/UXの改善を通じたユーザーとの「対話」
記事によれば、今年の売上予想は5,000万ドル超で、50万人×年会費100ドルという単純計算だろう。アドラーCEOの話で注目されるのは、メニューの拡大や採算性ではなく、その背景にある同社の戦略である。「出版社やニュース・パートナーに新しいオーディエンスを紹介できるよう努力を続ける」が、上述したように、新聞・雑誌記事は本とリンクすることで「本との出会いの機会を増やす」ために提供される。それはジャーナリスト経験者によってキュレートされ、「教養あるプロフェッショナルな消費者のための記事」がすべての分野から厳選されている。これは昨年秋に雑誌コンテンツの追加と同時に導入した、コンテンツ発見システムを拡張したもので、16,000のトピックをカバーしている。各記事の末尾には、関連する本、オーディオブック、ドキュメントその他コンテンツへのリンクがリストされている。おそらく、タイトルの選択も内容的関連が考慮されていると思われる。
本誌で何回か述べてきたように、アマゾンの定額モデルは非常に壮大、かつ重層的で精緻なもので、これに正攻法で対抗しようとしたOysterがあっけなく散ったのも当然と言える。定額制が成立するためには、一定の会員規模と利用密度、エンゲージメントが必要で、それを保つためのシステムとオペレーションが必要とされるのである。「読み放題」という粗放的なイメージとは逆に、ユーザーとの対話を通じて調整していくものだが、Scribdはかなり短期間にそのためのモデルをデザインしたとみられる。◆ (鎌田、05/25/2017)