21世紀の出版エコシステムと図書館E-Book

celsus-library-in-ancient米国図書館協会 (ALA)の年次カンファレンスの前週、ハーパー・コリンズ社がE-Bookの貸出に利用課金モデルを提案するサービスベンダーとの合意を表明したことで、この新しいモデルへの注目が高まっている。出版における「非アマゾン・モデル」の余地はほとんどないが、図書館は21世紀の出版/読書の基盤を提供しうると考えている。

大手出版社が利用課金モデルに注目する理由

ala_ID_websafe本誌6月8日号で紹介した OverDriveのCost Per Circulation (CPC)モデルの事例では、サイモン&シュスター社などが、すでにこのモデルを受け容れていた。今回ハーパー・コリンズが提供するのは、昨年から同社のA-Bookを提供しているHoopla (Midwest Tape)で、7月から15,000点のE-Bookが貸出し可能になる。また同社は、、1回1部、26回でライセンス更新というモデルで新刊と大部分の既刊の図書館への提供を進めていくとしている。

hoopla-ipd利用課金モデルは、2012年にFreadingが始めた。Hooplaが始めたのは3年前で、今年のOverDriveと、かなりの時間を要している。今年、ビッグファイブのうちのS&SとHCが採用したことは、この足の遅い業界では着実な前進と言えるだろう。周知のように、E-Bookの貸出しについては「みなし印刷本」モデルというべき形式が踏襲されてきた、同時の複数のユーザーが利用できるというデジタルの利点を封殺し、利用回数の上限まで設定して利用拡大を制限してきた。利用課金モデルは、アシェットと準大手のHMH(ホートン・ミフリン・ハーコート)が条件交渉中と伝えられる。Publishers Weeklyによれば、BookExpoではHooplaが「1,500の図書館、2,500の出版社」と発表したようだ。E-Book貸出を行っている図書館は35,000以上と想定されており、つまり課金モデルはようやく10%あまりということだろう。

最大手のペンギン・ランダムハウスは、E-Book貸出しに関心がないことを過去に表明しており、当面は変えないだろう。しかし、出版社側での利用課金モデルへの関心は徐々に高まってきた。以下のように、理由は少なくない。

  1. 在来型出版ビジネスの低迷(成長圧力は大出版社ほど強い)
  2. アマゾンKindle Unlimitedの市場的成功
  3. 貸出しが書店販売を損なうという「神話」の消滅
  4. 独自の小売ビジネスモデルの開発
  5. 紙とデジ、オンとオフ、貸出と販売の連続性

アマゾンとの価格戦争の結果は、大出版社に大きな喪失感と無力感をもたらしたと見られる。市場の覇権と書店との交渉力、知的道徳的権威のかなりの部分が同時に損なわれ、アマゾンへの依存度は下げるどころか上がってしまった。最高指揮官が錯覚した末のオウンゴールであればこそ深刻なのだ。戦略レベルでの総括と、マネジメントの「解体的出直し」が必要なのだが、もちろん巨大企業が巨大な過ちを犯す「認知的不協和」の時代に反省などが出来る組織はどこにもなく、B&Nなどと同じく漂流を始めている。

Kindle_unlimited_Amazon_ebooks_abonnement_bezos1図書館のE-Bookは、アマゾンに依存しないという点では貴重なものだ。販売とレンタルの連携は機能することを、アマゾンはKUで立証した。有料会員250万人のレンタル市場は、販売市場にとっても重要な存在で、アマゾンが直接間接(KDP Selectとアマゾン出版)に出版するコンテンツの成功を支えている。オンラインとオフライン、紙とデジタル、販売とレンタルの連携は、いずれも21世紀の出版エコシステムを支える不可欠な要素であることを、アマゾンは実証したのだ。アマゾンを敵とするにしても、油断のならないパートナーにするにしても、このビジネスモデルの技術的優位性は認めるしかない。

筆者は、それを超えるコンセプトがあるとしたら出版の社会性(公共性)しかないのではないかと思われる。つまり、公共図書館のコンセプトと機能の21世紀的な再構築を中心に据えて、本に関わる商業的・非商業的サービス/コミュニティのエコシステムを構想するということだが、これは別の機会に考えてみたい。ともかく図書館は最重要だ。図書館がなければアマゾンが図書館の機能も果たすことになる。アマゾンの「計量的ビジネスモデル」はそれほど精密なものであり、民間企業が競合することは難しい。 (鎌田、06/27/2017)

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Comments

  1. 神社の御朱印帖事件と同じ構図です。

    本はコモディティ商材なのか、魂の入ったsomethingなのか。

    紙では、コモディティとしての扱いが確定しています(中古本の売り上げには印税支払いが発生しないし、高値売買も可能)。しかしコモディティを前提に作られた「取次/書店」の仕掛けでは、もはや「知のエコシステム」を維持することが不可、というのが誰に目にも明らかになっています。

    ebookを紙の延長線上のものとして、仕組みを構築すると同じ事がおきるだけ。そこで、紙の図書館貸し出しは無料かもしれないが、電子は有料、といった工夫をする(その工夫が適切かどうかは別にして)余地がありうる。このとき、重要なのは、(紙にしろ電子にしろ)本に載せられているコンテンツをコモディティ商材と位置づけるか、魂の入ったsomethingと位置付けるかがポイントなんだと思います。