J.ワイリーはデジタル転換を推進しつつ業績維持

JWiley創業200年超の世界的出版社ジョン・ワイリー社は17年4月期の年次決算を発表したが、印刷本の不振をデジタルが補うことで売上17.2億ドルと前年水準を確保した。STM出版を主体とする同社にとって、紙からデジタル/サービスへ移行はもちろん想定内で、時間的制約の中での転換の速度と効率が要求されている。

「出版」は構成比3割近くに低下

9866571-14328686686106606-Daniel-Jones売上の海外比率が約半分で為替変動の影響を受けているが(4,300万ドル)、これを除外すれば売上は2%増、利益は28.3%減の1億1,360万ドル。出版部門には、書籍、教材、オンライン・テストが含まれるが、大学教科書を中心とした書籍は13%減、STMと専門書も9%減。他方でオンライン・テストは27%増、教材が7%、ライセンスが3%それぞれ増加した。出版全体としては、6億3,340万ドルは前年比9%減。出版だけではデジタル転換の影響を吸収できていない。しかし、最大の事業部門である科学研究コンテンツでは売上が3%増えて8億5,300万ドル、利益は13%増の2億3,100万ドル。(グラフは2014年の出版部門の売上構成)

コンテンツ/サービス売上構成比は、2017年を通じて5ポイント増えて68%と7割近くに達した。同社は2018年の出版部門の売上を「印刷本の減少が続き、一桁台後半のダウン」と予測し、これを研究コンテンツの一桁台前半の増加とソリューションの二ケタ台の増加がカバーすると見ている。同社は、デジタル転換に伴うプロセスの再構築に注力しており、18年度の1Qには2,500万ドルの費用を支出するとしている。

2度目の大転換を進めるワイリー

Wiley2001807年にニューヨーク・マンハッタンで印刷所として創業した同社は、アメリカ文学史にも名を残す出版社として成長し、20世紀には科学、高等教育出版事業を拡大してSTMで世界的出版社となった。従業員規模は5,000人ほど。近年は旅行書や実用書部門を売却するとともに、デジタル/サービス/グローバルの投資を積極的に行って構成比を高めてきた。いわば、出版のデジタル転換のモデル・ケースとして注目される存在である。最終的には印刷本は消滅に近づいていくと考えられるが、移行期のプロセスの組換えと最適化を行なっていくことは相当に困難なことだ。紙の後退の中での業績維持は、移行戦略が適切であり、少なくとも手遅れではなかったとを証明していると思われる。

transformation3出版のデジタル化は、著者・出版社・読書の距離が近いSTM出版で始まり、書店が重要な役割を果たす商業出版に進んでいくが、紙への執着が強い後者の場合は、戦略にブレが大きく、時間を大きくロスしている。デジタル転換はコンテンツの問題よりはむしろ、コンテンツと読者とのコンテクストの問題である。読者よりも紙にこだわる商業出版社の転換は、STMより厳しい。  (鎌田、06/15/2017)

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