公共善のためのテクノロジーを開発する非営利法人 Benetech は6月27日、出版社がE-Bookタイトルのアクセシビリティをチェックする Global Certified Accessible (GCA) プログラムを発表した。GCAは、視覚障害(全盲、弱視)、識字障害その他の読書障害を持つ生徒が必要とする書籍が標準を満たしているかどうかを判定する。
E-Bookのアクセシビリティをチェック
標準監査プログラムGCAは、学校や大学が電子教材を採用する上でアクセシビリティ基準を満たしているかどうかを容易に知ることが出来るもので、学校教材のアクセシビリティをめぐって近年(教育機関に対して)提起された訴訟事件が背景にあると言われる。つまり、直接的には訴訟リスクを避けるためということになるが、<学校→出版社→社会>とアクセシビリティに敏感になっていくのはよいことだろう。GCAは、出版社がコンテンツの制作段階で標準をクリアすることを可能にするものだ。
パイロット・プロジェクトで効果を検証したうえで正式発表となったが、GCAを最初に導入する出版社は、イングラム社(Vital Source および CoreSource)、ハーパー・コリンズ、マクミラン・ラーニング、エルセヴィア、ハーヴァード・ビジネス、アムネット・コンヴァージョン、 Apex CoVantageの各社。将来的にはすべての出版物をGCA準拠とすることを目ざすが、当面は優先度の高いものから対応させていくようだ。
GCAのプログラムは、標準的な印刷教材を読むことが出来ない生徒・学生が、同級生と同じコンテンツに接することを目標としている。ベースになったのは、旧IDPFの最後の労作といえるEPUB Accessibility Specification 1.0(日本語版はこちら)。
Benetechは、欧州のアクセシビリティ認定機関のDediconおよび英国の国立視覚障碍研究所(RNIB)などと協力してGCA標準を開発した。ページ遷移、読み順、記号と記述の適切性、表、関連付けとリストその他のデータの扱いなど100項目以上について基準を定めている。また音読 (T2S)やフォントサイズなどを含むE-Bookのパーソナライゼーション機能品質についての指針もある。
デジタルとアクセシビリティ問題
読書障害が問題となるのは、主として (1)教育、(2)公共サービス、(3)出版市場の3つの領域だが、従来はアクセシビリティ対応の費用負担(対便益)が社会的障害となって対応が遅れていた。読書障害は、視覚障害から始まって読字障害など、原因も対応も様々なものがある。出版関係者のリテラシーも十分とは言えなかった。
しかし、E-Bookとデジタル技術は、状況の改善のための大きな可能性を与えている。紙とインクの物理的世界ではアクセシビリティはコストとして敬遠されるが、デジタルの仮想的世界では、使われさえすれば、コストは無視できるほどになり、逆に新しい市場を開拓するからだ。具体的には以下のようなものがある。
- 問題と対策の発見、必要性の社会的理解(可視化)と共有
- ソリューションの提供(E-Bookおけるパーソナライゼーション)
- 代替メディアの提供(自動音読、オーディオブックなど)
身体的問題によって読書と出版物へのアクセスを制限されている人は意外に多く、「特異的読字障害」のように、日本では認識・対応が遅れていた分野も少なくない。あらゆる「障害」はすべての人が種類と程度の差はあれ持っている(あるいは年齢によって直面する)、アクセシビリティをパーソナライゼーションとして解決できるソリューションがあれば、公共善は商業的にさえ実現可能となるだろう。◆ (鎌田、07/04/2017)
参考記事
- New Digital Book Accessibility Certification Program Announced, By Kevin Callahan, Digital Book World, 06/26/2017
- UKSG webinar: eBooks Now: an introduction to managing eBooks and considerations for accessibility with Vicki McGarvey, Erica Lee and Ben Watson UKSG, 03/01/2017