拡張E-Bookにキラーコンテンツはあるか

220px-Squaredcircle.svg1億部のベストセラー『ハリー・ポッターと賢者の石』がKindle in Motion (KiM)版で9月5日にリリースされると発表された。拡張E-Bookは2015年にiBooks版でリリースされたが、このタイトルとしてはあまり話題にもならなかった。アマゾンはKiMフォーマット昨年8月にリリースしたが、ごく控えめな発表に留めている。

アマゾンが『ハリー・ポッター』拡張E-Book版

51VrfksFQ8L._SY346_今年の2月、KiMはヒュー・ハウィのベストセラーのWoolの拡張E-Book新版を16本目のタイトルとして加えた(本誌3/2記事参照)。Wool はアマゾンにとって戦略的なコンテンツであり、その流れから言うと、KiM版のハリー・ポッターは1年目の成果発表で、それなりの自信(見込み)を持っているということになる。

拡張E-Bookの普及にとって最大の関門が「標準フォーマット」と「キラーコンテンツ」であるということは専門家の一致するところだろう。しかし、この四半世紀あまりは、「答」の数々をいずれもパスしたまま経過してしまった。デバイスやコンテンツの価格は下がり、PCやタブレット/スマートフォンは億の単位で普及しているが、100万本売れるタイトルへの期待は薄れている。しかし、往々にして意表を突かれるのはこうした時だ。「その時」は意外と近い気もする。それはE-Bookという先例があるからだ。しかし、拡張E-Bookを成功に導く賢者の石などがあるわけではない。

killer contentKindleは「標準」も「キラーコンテンツ」もないままに巨大市場を創ってしまった。そこで意味を持ったのはEPUB (HTML)と適度の距離をとったMobi、そしてWord→Mobi/PDFという流れで生産された膨大な「コンテンツ」だった。もちろん、紙の新刊ベストセラーを並べたこと、紙の読者がKindleデバイスを買い、あるいはPCやスマートフォンで読むという体験は重要だったと思われるが、標準はMobiで足り、キラーコンテンツ云々はほとんど幻想に過ぎなかった。『フィフティ・シェイズ』はプロジェクトとプロセスの成功であり、デジタルというフォーマットとは無関係だ。

デジタルの価値は(制約からの)自由

筆者は、E-Bookの本質はデジタルという特殊なフォーマットにはなく、むしろデジタルによる、フォーマット(版)からのコンテンツの解放(誰でも簡単に出版できること)にあったと考えてきた。そしてこの仮説は、いまだこれといった「型」もビジネスモデルも生まれていない拡張E-Bookにおいて実証されると考えている。『ハリー・ポッター』のiBooks版がキラーコンテンツにならなかったのは、素材・構造・表現・操作性の自由な結びつきから生まれるUXの価値に新規性が認められなかったためだと思われる(紙の「オリジナル」やデバイスの環境に遠慮しすぎるとそうなる)。

KiMotion『ハリー・ポッター』のKiM版がiBooks版より成功する可能性があるとすれば、それは相対的に期待値が低く、より自由な表現が可能なことだろう。新しいフォーマットの価値は自由(つまり制約からの)にあり、それは結果(価値)で評価するしかない。拡張E-Bookは潜在的な価値を持っているが、それは四半世紀前と変わってはいない。ただ、それが実現されるのは、あくまで読者の環境において、個々のコンテンツとコンテクストが意味を持つことによる。

筆者が最も注目しているのは、E-Book におけるMS Wordの役割を果たす拡張E-Bookライター(オーサリング・ツール)をアマゾンが(いつ)出すかということだ。現段階で最も優れたツールはアップル iBooks Authorだが、これに匹敵し、同時にすべてのハードウェア環境での利用を想定したものをアマゾンが出した時に、拡張E-Bookは間違いなく普及期を迎えるだろう。 (鎌田、07/25/2017)

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