米国保守系出版社が「NYTベストセラー」と絶縁

Bestseller4-280x150「保守系出版社」を標榜する米国ワシントンDCのRegnery Publishingのマリー・ロス社長は、ニューヨーク・タイムズ紙が発表するベストセラー・リストの透明性が欠如し、不正確でリベラルに偏しているとして同紙との関係を断絶することを発表した。米国の分裂が出版界に及んでいることを示した形だ。

市場データとメディアの信頼性喪失

regnery_rossタイムズ紙が集めているデータの「偏向」は年々ひどくなっており、弊社のような保守派の書籍や著者は不当に低く扱われるので、客観的で公平なものとは見做し難い、とロス社長は言う。過去にはNYTベストセラー1位を取ったこともあり、8月23日締の週のランクで 'The Big Lie' (by Dinesh D'Souza)は7位となっているが、書店販売の印刷本の85%をカバーするNPD BookScanのランクでは1位で、明らかにデータのとり方がおかしい。つまり、一部書店のPOSデータに基づくNYTの集計は恣意的である、ということだ。

Regnery_Book_of_the_Month_Promotion_Header_2_900x232_8.3.2017米国の出版界において、NYTベストセラー・リストは、マーケティングに使われるだけでなく、著者や従業員へのボーナスの基準としても使われるほどで、たんなる参考数字ではない。問題は視聴率調査と同じく、NYTがカウントしている書店とサンプリングの方法が極秘扱いで、もともと「平均」を正確に反映するはずもない地域や書店の数字を恣意的に選択している疑いが払拭できないことだ。最近までは、いくらメディアが民主党寄りでも、市場や有権者が信頼するデータを偏向させたりすることはしないだろうという常識があったのだが、それがなくなったのである。

市場や政治のような「公共空間」は微妙な信用/信頼で成り立っている。信頼を成り立たせるのが「数字」だが、それはメディアや調査機関への信頼が支えている。だから、NYTを嫌いながらも一定の信頼を置いていた出版社が「NYTベストセラー・リスト」と決別するということは、出版と読書という近代の「公共空間」が崩れ始めたことを意味する。オンラインとデジタル・コンテンツ時代の人々は、視聴率に意味があるとは思わず、印刷本と書店が出版市場を代表するとも考えていない。アマゾンはすでに独自のベストセラーを発表している。

思えば、それもこれもグーテンベルク以来のことだ。つまり新しいメディアが登場して、「信じがたい」こと(例えばルターの95信仰箇条やコペルニクスの地動説)を広め、文字通り天地がひっくり返って以来の。15世紀のパラダイム変動が宗教戦争を経て(新旧キリスト教世界の分裂・分割の固定化という形で)収まったのは17世紀のことだった。しかし、市場の問題に関しては、いつまでも信用を信仰で代用することは出来ない。 (鎌田、09/07/2017)

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