Kindle 以後10年:(2)二人の天才

bezos_NweekiPhoneの圧倒的な成功の影に隠れて多くの人が忘れてしまっているが、ジョブズはiTunesで21世紀のビジネスモデルを創造した。そのことをいちばん理解していたのはベゾスCEOだったはずだ。彼の関心はガジェットではなく、持続性を持つコマースにあったが、クラウドと無数のモバイルをつなぐコンテンツ・ストアは、コマースそのものを変えるものだった。

モバイルのビッグバン

space_vortexモバイル・ガジェットは、インターネットの利用におけるミッシング・リンクを埋めた。アマゾンはデスクトップ・インターネットを土台としてビジネスモデルを構築していたが、そのインタフェースの有効性が(人々との接触時間の制約により)減衰していくことは明らかだった。とくに、商品探索→購入→保存→再生/共有を一つのガジェットで完結できるメディア・コンテンツでは、モバイルの優位は圧倒的だから、ここでiPodというメディア・ガジェットによってアップルに市場を支配されると、アマゾンの戦略は狂ってしまうのである。

モバイルが時代の方向であることは多くの人が理解していたが、その「かたち」がどのようなものとなるかを世界はまだ見ていなかった。iPodとiTunesはその原型を示したのである。iPod/iTunesの衝撃はそれほどのものだったのだが、アマゾンにとっての幸運は、孤高の存在であるジョブズ氏の関心がメディア・ビジネスにもリテイル・ビジネスにもなく、ひたすら「完璧」なガジェットに向かっていたことだ。そのことがアマゾンに余裕を与えた。だから焦らず、着実に iPod/iTunesのデジタル版と取組むことが出来たのだと思う。Kindleはジョブズの提起したモデルを取込んで使いこなしたのだと筆者は考えている。

bookstore_amazonとはいえ、本は特殊なコンテンツで、音楽と同じようには出来ない。本というものはかなり特殊な商品で、たんなる私的消費というよりは「読書空間の共有」へのアクセス欲求という社会的側面を持つ。それが専用の流通ネットーワークを必要とし、長く続いてきたのには理由がある。デジタルというフォーマットが、独自のライフサイクルを持てなければ、本としてステータスと存在価値を認められない。つまり普及しない。印刷本の電子複製物に止まるならば、その発展は制約されるからである。在来出版社が、書店網の維持を最優先し、DRMや価格、再流通など面でデジタルに制約を課すことは明白だった。出版業界は音楽業界で起きたことに全力を挙げてたたかうからである。

出版という社会的システムを仮想化する

「印刷本のデジタル・コピー」が本と見做される可能性は高いし、一定の商品性も持つだろう。しかしそれは出版社が出版し、印刷版を「原本」とし、その複製である限りの複製版ということで、出版社が価格と流通に関して印刷版以上の統制力を持つことになる。重要なことは、アマゾンがここで、たんなる「コンテンツ」の配信システムにとどまらず、出版というシステム(構造・機能・インタフェース)をデジタルに即して新たに定義し直したということだ。ベゾス氏はコンテンツを本たらしめる社会性を伝統的な印刷本出版の枠組みの外でシステムに付与することを考えた。それは流通を含む出版の全プロセスである。

Bezos_spaceベゾス氏は宇宙工学を志しながら、金融とITのプロフェッショナルとしてウォール街にデビューした人物で、もちろんインターネット革命を機に起業したのだが、金融界を退いた後は書店を起点とするコマースを構想し、実際にABA(全米書店協会)のセミナーに足を運んで書店ビジネスについて学んでいる。ただの門前の小僧ではなかった。彼の発想の特徴は宇宙的スケールでのシステム発想で、全体のメカニズムを正確に理解することを前提とし、徹底したシミュレーションを厭わない。それはシステムデザイナーのもので、最短距離と最適解を考える通常の経営者とは異なるが、芸術家的な非妥協性で孤高の人だったジョブズに近いものがある。彼は出版の秘密に本気でチャレンジした。 (鎌田、10/27/2017)

本稿は、Kindleの10年を振り返り、出版の何がどう変わって、明日にどう結びつくかを考える出版企画のための下書きとして読者と共有していただくために掲載するものです。

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