FBF 2017と「政治」化する出版

FBF2017フランクフルト・ブックフェアが開幕し、ゲスト国フランスのマクロン大統領を選挙を終えたメルケル首相が迎え、独仏両首脳が表現の自由と本の価値を共有する「欧州の文化的団結」を訴える政治色の強い開幕となった。基調講演ではペンギン・ランダムハウス(PRH)のマルクス・ドーレCEOが、市場の「安定」をいつになく強調したが、これも動揺を隠す政治的表現と言える。

「安定」それとも停滞

Makron_FBF「書籍市場はほとんどの国で緩慢ながら着実な成長を続けています。」財務的健全性に貢献している要因として「印刷本市場の再活性化」と「印刷本が80%、デジタルが20%で安定したこと」をあげ、「このことを5年前に誰が予想したでしょう。ほとんどの人は逆を考えたのではないでしょうか。」と紙の支配の下での安定を賛美した。この言葉、同じ人の口から3年前にも聞いた覚えがある。

49735-v1-600x米国の業界で広がっている出版市場の停滞への懸念、非活字系のデジタルに圧迫される出版の暗い未来などはおくびにも出さないドーレ氏が、出版の明るい未来として語るのは、新興国における識字人口の拡大だ。インドの13億人の10%は英語を話し、これは英国の人口の2倍で英語出版の市場を拡大している。

出版業界の課題として、ドーレ氏がとくにあげたのは、出版物の総量の増加とディスカバリー問題だ。自主出版の増加にも同氏の自信は揺るぎない。「アマゾンで入手可能なタイトルは5千万にも達し、自主出版を市場への到達手段とする著者も増えました。私たちも出版点数を増やしていますが、それでもつねに次の傑作を求めているのです。出版社はコンテンツのキュレーターとしての決定的な役割を負っています。出版社は品質に責任を持ち、市場に完全なものとして提供するのです。」

自画自賛色が濃い話の中で、具体的だったのは、PRHが「本であるか否かは問わず、増大するストーリーへの需要に応えるために年間750万ドルを投じている」と述べた部分、それと「政治と社会についての将来の議論」において重要な役割を占める意思表示あたりか。前者は、出版社がメディアの枠を超えて「ストーリー」市場のリーダーシップを握りたいということだろう。後者は、移民をめぐる政治的対立など社会的緊張が強まる中でのフォーラムとしてのポジションを出版が確立したいという意欲を示したと思われるが、紙とデジタルの比率に満足しているようでは遠いと思わざるを得ない。 (鎌田、10/12/2017)

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