米国出版社協会(AAP)は9月28日、会員1,200社の5月の販売統計を発表し、E-Bookの売上が2年以上ぶりに前年比でプラスとなったことを明らかにした。2.4%とごくわずかなものだが、AAPの発表はハードカバー(+6.7%)ではなく、これをリリースの見出しとした。E-Bookの数字が再び注目されるようになったことを示している。これはただごとではない。
いまさらデジタルに期待はなぜ
AAPが発表する在来出版社1,200社のE-Bookの売上の数字が前年比で下落を始めたのは2015年3月のことである。以来2年以上にわたって、デジタルは直線的に下落を続けたのだが、メディアがこれを「紙の復活」から「デジタル疲れ」まで、あらゆる意味不明な表現で歓迎したことは記憶に新しい。しかしそれは想定外の結果をもたらした。別稿で述べたように、ゼロ成長と他のメディアからの浸食である。これはデジタルによる成長(デジタルのシェアは増加)よりも悪いことは言うまでもない。
在来出版業界が2年も待って得た事実は、次のようなものであったと思われる。
- 印刷本市場は全体として伸びておらず、成長余地は小さくなっている
- ハードカバー(主に新刊)が伸びてもペーパーバックが落ちることで相殺される。
- 印刷本でのアマゾンへの依存度は増大している。
- E-Bookの価格引上げで新刊本の販売に勢いがなくなっている。
- 2012年以降の停滞で、出版は再び衰退産業の烙印を押された。
- オーディオブック市場は本物で、30%台の成長が見込める。
今年1-5月の数字を前年同期と比較したのが下の表だが、紙の合計、デジタル(E-Book+A-Book)の合計のどちらもほとんど変化がなく、ハードカバーの増加はペーパーバックの、A-Bookの増加はE-Bookを侵食した結果であることを示している。つまり、紙(P)の中、デジタル(D)の中でのカニバリズムが作用して、どちらも成長の位置口を見失っている形だ。紙の市場とデジタルの市場は、もっぱらそれぞれの内部で競争しているということは、書店とモバイルというチャネルの性質がまったく異なることを考えると理解できる。出版社としては、P/Dのカニバリズムではなく、P/P、D/Dのカニバリズムを問題とすべきだったのだ。
縮小する出版社モデルの「未来」
期間 | 2017年1-5月 | 2016年1-5月 | 増減 |
---|---|---|---|
E-Book | 466.1 | 482.1 | -3.3% |
A-Book | 129.9 | 98.1 | +32.5% |
デジタル合計 | 596 | 580.2 | 2.7% |
ハードカバー | 901.9 | 845.1 | 6.7% |
ソフトカバー | 1,008.3 | 1,049.7 | -3.9% |
印刷本合計 | 1,910.2 | 1,894.8 | 0.8% |
他の物理フォーマット | 136.7 | 132.3 | +3.3% |
出版社が以下のことに気づいていないとすれば、かなり深刻である。
- デジタルはチャネル自体の成長にもかかわらず、E-Bookの減少でメディアとしての本のシェアを減少させている。デジタルにおける出版社の未来は縮小している。
- 紙は、B&Nに見られるようなチャネルとしての書店ネットワークの衰退にもかかわらず、販売水準を維持しているが、それはオンライン(=アマゾン)の貢献による。
つまり、2012年以来の5年間は、少なくとも大出版社に関する限り、かなり壊滅的な影響をもたらしたということだ。アマゾンへの依存を嫌ってE-Bookを「虐待」したことで、逆に自縄自縛に陥り、泥沼から出られなくなったことになる。以前はプロセスを変えてデジタルに適応させる時間があったのだが、5年もの間、流れに逆らい続けたために、秩序ある移行は困難になった可能性が強い。
本誌の予想の通りだが、自慢するよりも、出版経営者にとってのインフラの転換というものの難しさを思わずにはいられない。◆ (鎌田、10/05/2017)