アマゾンは、インド向けにAndroid版の軽量E-Readerアプリ Kindle Lite をリリースした。このアプリは2G (GSM)というインドでも最もベーシックなモバイル環境で動作することを目的としたもので、Highlights、X-Ray、Wordwiseといった読書支援環境は省かれているかわりに、データ使用量モニタがついている。そしてファイルサイズは僅か2MB。
テクノロジーのもう一つの最前線
この仕様は、一部のIT関係者の目を惹くだけだろうが、技術的にはかなり高度なものだ。ハイレベルなプログラマーだけがふた昔前の2G通信に最適化したリーダ・アプリを2MBで仕上げることができるからだ。ハイパーカードの開発者であるビル・アトキンソンが、若いころMacDrawを300KB(当時のフロッピーディスク1枚)以下で書いたことを誇りにしていたように、短いプログラムはそれだけで大きな価値を意味する。動作環境と市場を拡大するからだ。おそらくインド人の優秀なプログラマーがチャレンジしたのだろう。
Android 4.4 (2013)以上で動作する2Gアプリには、2つの意味があると思われる。第一に2Gは発展途上国(LDC)ではなお主流であり、中国やインドでは2Gから4Gまでが垂直分布している。世界的には20億人あまりの市場があるが、このユーザーが使える、つまり2Gでスムーズに動作するリーダ・アプリはない。Kindle Liteは、最大人口に向けた製品で、マーケティング的な意味は決して小さくない。サポートする言語は、連邦公用語のヒンディ語をはじめ、タミール語、グジャラート語、マラータ語、マラヤーラム語で、ベンガル語のような大言語を欠いているとはいえ、まずまずの構成だろう。多言語対応の拡大が出版文化において持つ意味は言うまでもない。
もう一つ重要な点は、2Gでスムーズに動作するリーダ技術は、M2M/IoTで使われるLPWAN(低電力広域ネットワーク)との相性がよく、このサービスは将来的に無料で利用可能となると見られることだ。3G以上の通信は電力環境のよくないLDC諸国ではコスト的に普及が難しい。IoT (モノのインターネット)がモバイル読書に与える影響はいまだ不明だが、従来のブロードバンドの限界をコスト的に突破できるだけでも、E-Bookの普及には貢献するものとみられる。
アマゾンという企業は、顧客第一主義を掲げて市場的な限界にテクノロジーによって挑戦することを使命としてきた。Kindle Liteもその挑戦に挑戦するものだが、識字教育や読書教育など読書環境の改善に貢献することが期待される。◆ (鎌田、11/07/2017)
- Amazon Kindle Lite for Android is a New App for Indian Readers, By Michael Kozlowski, Good eReader, 11/03/2017
- Amazon Kindle Lite app beta version released in India, Gadgets Now, 11/01/2017