実質的には大出版社としての規模に達しつつあるアマゾン出版は11月28日、短編小説と短文ノン・フィクションを中心とした新しいブランド Amazon Original Stories (AOS)を18番目のインプリントとして立ち上げた。一律2ドルでKindle Singles ストアから販売されるほか、PrimeやKindle Unlimited会員には無償で提供される。
「1時間」をめぐるメディアの攻防
AOSのジュリア・サマーフィールド編集局長によれば「目標は、現代の第一線のストーリーテラーの手による小説、エッセイ、報道などの出版を支援し、新しいコンテンツをプライムやKUの会員に提供すること」と述べている。「Kindle Singlesでの経験が示す通り、力強いストーリーは一気に読むことができ、しかも別のライターにも機会を提供します。これから数ヵ月で新しい読書体験をお届けします。」ということだが、これはデータ・マーケティングで得られたモデルが前提にあることを示している。アマゾンAOSは5,000語から2万語を目安とし、オーディオ・ナレーションも提供する。
「ショート」とは一気に読める長さを意味し、英語では 'single sitting' (ひと座り)と呼ぶ。もちろん感覚的なものだが、まあ1時間、100ページといったところだろうか。米国の出版界では500語から1万7,000語としているようだが、英語の平均読書速度(WPM)を250語とすると68分となる。人々の時間を争奪するメディア・ビジネスにおいて、「1時間」はますます貴重(希少)なものとなりつつある。生活時間において、TVからスマートフォン、タブレットまでを含めた「スクリーン・デバイス」が拡大し、印刷物と触れる時間を侵食しているためだ。「スクリーン」はTV映像だけでなく、SNSで過ごす時間も含まれる。
出版界は印刷本の売上だけを心配しているのだが、現実の(そして潜在的な)市場は人々の限られた生活時間であり、時間の争奪において文字メディアは(フォーマットを問わず)追いつめられる傾向にある。アマゾンが懸念するのは、人が本を読まなくなり、印刷本とともに出版が衰退していくことだ。ショートフォーム出版は「1時間」の勝負のための手段なのである。
インターネット以前のメディア・ビジネスは、搬送手段であるメディアの有限性を前提とし、消費者とその生活時間の限界を無視してきた。コミュニケーション(Web)革命によって人々の生活時間を得るためのコストは激減し、希少性の上に君臨していたマスメディアはビジネスとしての光彩を失った。2013年以降、停滞(実質的には衰退)を示している書籍出版のもまた危機にあるが、脅威を与えているのはWebであってアマゾンではない。◆ (鎌田、11/30/2017)
参考記事
- Amazon Publishing Launches New Imprint, By John Maher, Publishers Weekly, 11/28/2017