Publishing Perspective (11/19)は、Kindleコンテンツ担当のデイヴィッド・ナガー副社長(VP)とのインタビューを掲載し、10周年を回顧した。世界最大の出版社からアマゾンに参加した彼が、Kindleの成果をどのようにみているかはとても興味深いが、顧客体験 (CX)とコンテンツ中心主義を最も重要な成功要因と見ている。
Kindleの成功は「60秒の顧客体験」に尽きる
Kindleの成否は、短期間でのコンテンツの質と量の整備にあり、ビッグファイブ出身の彼のカオが十分に役立ったことは衆目の一致するところだ。しかし、ナガーVPのKindleへの真価は、それを遥かに超えたところにあった。Kindleに参加したのも、アマゾンの出版ビジネスに対する方針を慎重に確認した後のことだ。
ナガー氏は2009年春にアマゾンにKindleコンテンツ担当のVPとして参加したが、それまではランダムハウス社の販売・マーケティング部門を中心に経営幹部として16年在籍していた。母と姉はニューヨークで文芸エージェントとして名高く、自身のキャリアも20年を数える。2000年前後からデジタルとの関係は深まっており、RHではオーディオブックの開発や旅行情報出版 (Fodor)を担当したほか、E-Bookの版権料モデルの検討も行っていたという。
Kindleの成功が、何よりもオンラインで本を選び、購入して、60秒で読み始めるというユーザー体験(UX)にあった、とナガー氏は評価している。E-Bookはすでに存在し、Sony Readerのように完成度の高いデバイスもあったが、PCでダウンロードし、E-Readerに転送してから読む、という手間は、電子読書を不自由にしていた。書店で買ってすぐに、帰宅の時間も惜しんで読み始めるという、伝統的な読者体験に比ぶべくもない。
Kindleはコンテンツ・ビジネスである
僅かな違いに思えるが、購入から読み始めまでのプロセスは、衝動買いや拡散欲求を刺激できるかどうかで、マーケティングでは非常に重要な意味を持つ。これは書店ビジネスではよく知られていることだ。宅配が必ずしも利点ではなく、弱点でもあることはアマゾンが最もよく知っていた。Kindleはモバイル読書体験を実現したからこそ成功したのだ。
しかし、ナガー氏が重視したのは、果たして総合小売業としてのアマゾンが、この完結性によって成功したデバイスとコンテンツのいずれを重視するかということだったようだ。年間数千万台に達するガジェットが市場を先導すればコンテンツも売れると言えるが、自分のKindleでなければ読めないコンテンツは、ポータビリティが大きく制限されるし、そもそも公開性を要件とする本ではなくなるとさえ言いうるからである。アマゾンは躊躇せず、コンテンツを選んだ。
ナガー氏がアマゾンに入社する少し前の2009年3月4日、同社は最初のKindleアプリを発表し、アップルのデバイスでKindleコンテンツが読めること、そして「Kindleコンテンツ」を読むのに専用デバイスが不要であることを明らかにした。そしてナガー氏が「Kindleコンテンツ」担当副社長を引受ける上での障害はなくなった。おそらく、出版界のベテランやデジタルに期待する若手が良心の咎めなく、Kindleコンテンツの普及に心血を注いだのは、アマゾンの一貫した姿勢にあったと思われる。◆ (鎌田、11/27/2017)
参考記事
- With Amazon Kindle Now Turning 10, David Naggar Says Content Is Prime, By Porter Anderson, Publishing Perspectives, 11/19/2017