Kindle 以後10年:(3)継承と断絶

reinvening wheel出版におけるデジタルは、活字組版から始まり、ページ制作に拡大し、流通では在庫管理とロジスティクスに始まり、オンライン上の仮想書店で消費者と接点を得たが、これで読書までがデジタルで連結する展望が生まれた。しかし、その先が難しい。アマゾンはデジタルの魔法が通用しない課題に挑戦しなければならなかった。

アマゾンによる出版の再発明

常識的には、E-Readerさえあればデジタル化された本をで iTunesのようなプラットフォームから購入し、ダウンロードしたE-Readerで表示することで読書体験を含むデジタルなサプライチェーンが完成する。印刷本の電子化に技術的な問題はなく、出版社/版権保持者が所定のフォーマットのコンテンツを提供してくれればよいだけのはずだ。しかしそうではなかった。それはコンテンツの「価格」を誰がどう決めるかという、最大の難問があったからだ。

streamlineこれには印刷本以来の歴史的背景があり、出版者と小売業者は訴訟を含めた長い対立の末に、定価は出版社、小売価格は書店、卸とマージンは交渉で、ということに(米国では)決着していた。本の価格決定方法は国によって異なることは周知の通り。出版社の最大の関心がこの問題で、コンテンツの提供を渋れば、十分なタイトルは揃わず、出版社に小売価格を委ねれば、本は印刷本と同等に近い価格となる。アマゾンは、E-Bookの普及には消費者が納得する価格が前提になることがわかっていた。この問題に答を用意できなければ、読者の手に届かず市場は生まれない。

アマゾンは、したがって既成出版社に頼らない出版システムを事前に用意しておく必要があった。それは、制作から販売まで、出版のために必要なものをすべて自前で用意するということだったと思う。つまり、出版社を前提としない出版、アマゾン自身が出版社となる出版、書店を前提としない出版、オンラインのみの出版といったものだ。制作や販売だけでなく、購読、レンタルまでも考えていたことは間違いない。つまり自然に生育するエコシステムではない、精密な設計図と実験環境を持ちシミュレーションを繰り返して最適化していく人工的システムである。

旧体制を破壊せずに移行する

歴史が古く、最も自然に継続してきた出版というシステムを、デジタルによってゼロから再構築するという発想は、最初から本を戦略の基底に置いたアマゾンでもなければあり得ない。制作・流通はデジタル化され、電子的な読書は商業出版以外では普及していた。それでも、出版ビジネスをデジタルで構成する存在はなかったし、その方法は知られていなかった。出版ビジネスはコンテンツと制作、流通などに分かれており、著者から消費者までを結ぶオールラウンドな「出版」社は、特定のジャンルでの例外的な存在だった。それを普遍化するにはすべての問題を同時に解決する問題があり、このビジネスに関わってきた企業には不可能あるいは無意味に思えた。

coexistアップルの iTunesモデルは、すべてのコンテンツのサイクルをデジタルで統合する可能性を示した。これがアマゾンにとっては合図となった。アップルか、他の誰かが本に手を付けるということだ。もちろんその時期を待っていたアマゾンはすぐに動いた。E-Readerとコンテンツの販売だけを考えていたのではなく、著者から消費者までを結ぶオールラウンドな「出版」ビジネスを考えていたが、それを理解していた人は少ないと思う。その意味で、Kindleは真に「革命」的だった。それは本と出版のビジネスの中の一部を置換えたのではなく、人と本の関係の全体を変えようとしている。そして「革命」はまだ途中である。

アマゾンの革命は、Webという環境をフルに利用し、出版のすべてのプロセスをWeb上に展開したのだが、当然にもそれは(既存の出版エコシステムの両端にあって孤立している)著者と消費者にフォーカスしたものとなった。著者と消費者とのホットラインこそ、アマゾンが最も力を入れたものだ。そのためには、もう一つの大きな課題があった。それは、多様な出版社と書店に培われてきた在来のエコシステムを最大限に保ちつつ、新体制に移行していくというものだ。いわば平和的移行である。 (鎌田、11/02/2017)

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