デジタル印刷のビジネスモデル(1):PoD 2.0?

PoDこの10年、出版界はもっぱら「紙かデジタルか」について考えてきたが、コンテクスト(5W1H)によって答が異なる問題に二者択一を求めるのは、むしろ現実回避の愚問だったというしかない。いま印刷の側の技術革新が進行し、すべての出版の当事者にとって具体的・現実的な選択が見えてきた。次はビジネスモデルだ。

印刷が出版の最前線に

digital-printer-280x150「電子出版」とは、電子化されたコンテンツ(いわゆる電子書籍)を出版・販売することだと考えている人は少なくないが、かつては「電子組版」や「電子書店」を意味したことがあったように、出版サプライチェーンを構成する主要なプロセスをデジタル技術で置換えていくかなり長いプロセスと考えたほうがよい。「電子組版」は1970年代に始まり、DTPやワープロで一般に普及し、そしてWebに載ることでクラウド上のサービスになった。

忘れてならないのは、物理的なフォーマットとしての印刷本の価値と効用はまだ失われておらず、経済性を落としながらも、デジタル技術の支援を受けて延命しているということだ。DTPで一通りの完成を見た製作工程は、主としてインクジェットプリンタによるデジタル印刷でさらに効率を高めることに成功している。マーケティングによって消費者ニーズ(仕様、価格、配送…)へのきめ細かい対応が進むことで、印刷本への需要はさらに拡大する余地がある。但し、ポイントはここでもデジタルである。

デジタルが印刷本を蘇らせる

伝統的な印刷本出版の最大の問題は、もちろん資源多消費と非効率であった。非効率は「返本問題」として数字化されるが、返本は販売機会に比例するので、返本ゼロを目指せば販売機会も失われる。需要が予測しにくい商品なので、ギャップは大きい。さらに悩ましいのは、オフセット印刷において1冊あたりの印刷コストは部数に反比例するという関係である。最も簡単な解決は「売れれば万事解決、全員納得」という発想で、プライドとエゴを刺激されやすい多くの出版人をギャンブルと破滅に導いてきた。なのでセーフガードも確立されている。

現代の出版社では、以下の方法で返本問題を回避あるいは軽減している。

  • 売れている著者の、売れそうな本しか売らない(選択と集中)
  • 一定の(およそ20%台)の返本は最初から「書店販促用」として見込んでおく
  • 印刷費、販促費を削減し、著者の実質印税率を下げる。
  • 文庫・新書で出版点数を増やす(日本の場合)。

以上の方法は、書店に影響力がある大手出版社だけがある程度の成果を得られるが、中小出版社は出版の点数、部数を縮小することでしか対応できない。そして書店には売上を高めるにも、利益率を向上させるにも、手段が乏しいので経営環境は苦しくなる。アマゾンのように「十分な顧客とアクセス手段」がないためだ。1970-80年代は書店の大型化が進んで出版社への交渉力を拡大してきたが、80年代以降はメディア・コングロマリットを中心とした出版社の統合(大規模化)が進み書店は衰退業種となった。

印刷本の衰退の原因は、その物理的性質(主にサイズと重量)からくるコストにある。解決があるとすれば唯一つ。集約化と個別化のジレンマをデジタルで突破することだ。昨年あたりから、米国でデジタル印刷に注目が集まっている背景は、これによって出版社、印刷会社、書店のビジネスモデルが大きく変わるという認識が広がって来たこと、そしてほかならぬアマゾンが新しいビジネスモデルを準備していることがある。ゴールは「印刷本品質/価格」「注文即入手」に近づけるということだ。それはいつ、どのようにして、どの程度可能になるのだろうか。 (鎌田、12/05/2017)

 

 

Print Friendly, PDF & Email
Send to Kindle
Pocket

Share