書店再生の契機 (1):3つのC

indy_bookstores米国で「独立系書店の復活」が注目を浴びるようになったのは2012年頃と記憶しているが、こういう話題は語られるコンテクストによってイジられやすく、誤解を誘因して都市伝説化するので、真面目に考えたい場合には、各種コンテクストの中に生きている各種「専門家」を超えて学者の仕事を検討するしかない。

デジタル転換による危機をどう乗り越えるか

Raffaelliハーヴァード・ビジネススクール(HBS)で組織行動学を専攻するライアン・ラッファエリ助教授 (Ryan Raffaelli)は、成熟産業が基盤技術の変動に直面した時、いかに再構築するかという問題を、スイスの時計産業を起点として考察してきた。デジタル時代の「技術再浮上論」(“technology reemergence”)をテーマとしたラッファエリ助教授が、独立系書店のサバイバル問題に関心を抱いたのは2012年のことという。以来、フィールドサーベイ、フォーカスグループ調査を重ね、書店主、出版社、有名作家を含めた200回以上のインタビュー、13州の数十の書店の訪問調査、計915本の新聞・雑誌記事分析を行ってきたという。これだけ「独立系書店」に時間を割いて取組んだ学者はめずらしい。書店を開業希望者のためのセミナーにも自ら足を運んだという。ちなみにアマゾンのCEOもオンライン書店の開業以前に足を運んでいる。

30dbd_88_1ef7cbaefb72bb847786a673f00cb1ccラッファエリ助教授は独立系書店の再浮上のための鍵を「三つのC」にまとめた。つまり、コミュニティ、キュレーション、コンヴィーニング (convening、オフ会)である。詳細は Quartz の記事 (By Carmen Nobel, 11/26)とビデオをご覧いただくとして、概要を記しておく。

書店を救う「3つのC」とアイデンティティの再構築

コミュニティ:成功している独立系書店主は、地域社会の価値を背景にした「地方主義」を前面に出しており、それによってアマゾンや大手チェーン書店に対抗し、顧客を取り戻している。

キュレーション:店頭在庫に注目することで、より個人的で特別な顧客体験を提供することに成功している。たんにベストセラーを推奨するのではなく、未知の有望作家や掘り出し物のタイトルの発見を手伝うことで顧客との間に特別な関係をつくることで足を向けさせる。

コンヴィーニング:児童書の話題、著者講演、サイン会、誕生会など、何に依らず、関心を共有する地元の人のための小さな「会」を催すことがコミュニティを維持・発展させる上で重要。ある書店では年に500回も開催している例もある。

3つのCをサポートする存在として独立系書店主のための米国書店協会(ABA)があり、成功事例の共有やソーシャルメディアの活用ノウハウなどの情報提供を行っている。ラッファエリ助教授は、危機に瀕した成熟産業には「集合的アイデンティティ(CI)」が不可欠であるという持論を持っており、スイスの時計産業のサバイバルは、CIの再定義と社会による価値の再認識によるものとしている。

「独立系書店の復活」がどの程度現実のものであるかは後編で述べてみたい。注意してほしいのは、このテーマが非常にメディアの食いつきやすい素材で、多くの記事を読んだが、内容がなく、ラッファエリ助教授の研究の意味も理解していないものばかりだったということだ。 (鎌田、12/12/2017)

参考記事

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