Kindleの10年と出版「デジタル転換」

lord-jagannath本誌は創刊以来8年間、毎週通算で400号近くを発行している。出版のデジタル転換という、紙の発明、グーテンベルク革命などに匹敵する歴史的事象を読者とともに見聞する機会を得た一人として、同時代史あるいは年代記として書いてきたつもりだ。いまだ「出版」も「デジタル」も会得したとは考えていないが、毎年新しい発見があるのでやめられない。

進化するビジネスモデル

昨年はKindle10周年の年で、いろいろ考えさせられることがあった。ポイントは、アマゾンの何が他と違っていたのか、つまりなぜ一人勝ちしたのかということだ。アマゾンと立ち向かったライバルや大出版社は認めようとしないだろうが、ほとんどの人はデジタル化のシナリオ、いやアマゾンの意図と能力(独自のテクノロジーを背景にしたビジネスモデル)を読み違えたと思う。

space-station2まずデバイスが注目された。アップルがiPodでデジタルコンテンツ流通の有効性を実証した後、アマゾンは当然のように独自のデバイスでE-Bookに進出してきた。それにはハードウェアという高いハードルを越える必要があるが、もちろんアップルもソニーもいるのに対してアマゾンはハードでもモバイルでも実績がなかった。アマゾンが魅力的なデバイスを提供できる可能性は低い、と誰でも考えた。2007年はiPhoneの年でもあり、デジタルを脅威と考えていた出版関係者も、アマゾンが相手とは考えなかった。オンラインで幅広い成功を収めたとはいえ「たかがオンライン本屋」に何が出来るかという程度のものだったと思う。これが第一の誤算。

次に、在来出版社は焦眉の問題を「紙かデジタルか」ということと考えた。とくにデジタルが急伸した場合の印刷本の価格崩壊と版権料市場の混乱、出版の利益率低下は、大出版社のビジネスモデルを根底から覆す可能性があり、最も懸念された。コストをかけた本を確実に高く売ることでシェアと利益率を高めてきた出版社にとってはたしかに阻止したいだろうが、それ以外のことが目に入らなかったのは、いただけない。それで10年もの時間を喪ったのだから。

必要な「何か」がつくれる仕組み

ITビジネスはクラウド・デバイス・サービスで対応し、出版社は価格戦争で対応した。それぞれのビジネスの流儀で対応して勝てるという勝算は十分だったと思うが、Kindleはデバイスを超えており、ストアを超えていた。自分自身を超えることも出来た。それは商品とユーザーのニーズを知り、そのコンテクストを販売に結びつけるための仕掛けを持ち、それどころか市場にない商品やサービスを企画し、販売することで出版社にもメーカーにもなることが出来たからである。アマゾンが言うように、Kindleは「進化するビジネスモデル」であり、必要なものをつくりだすことができる。必要な「何か」が正確に定義される限り。

出版社から見れば、アマゾンは書店から始めた新興の小売ビジネスであり、その意図はベストセラーの安売りを集客の手段とするB&Nやウォルマートなどと同じものと考えていた。まさかアマゾンが「それ以上のもの」を望んでいるとは考えられなかったのである。出版の利益率の低さは社会の常識で、アマゾンが出版のすべての側面に関わってこようとは考えられなかった。しかしアマゾンは規格外の意図をもって出版のすべてにコミットしようとしていた。Kindleでの最も重要な発明は、以下の4つであると思われるが、これは映像、音声、ゲームなどのコンテンツやインタフェースと結びついて無限に展開していく。

  1. ユーザーを知り、有効な提案をするストア
  2. 本と読書に関する情報を交換するプラットフォーム、そして
  3. 本を制作・出版・販売する完結したサイクル
  4.  デバイスを超えたE-Reader

このビジネスモデルは現在のところ最強であり、伝統的な場や組織や個々の力に支えられたビジネスでは勝てない。相手は人間が動かす企業というより、AIが動かすシステムである。これからの10年は、Kindleモデルがどこまで進化するか、どこで限界が生まれるかを見ることになるだろう。出版の歴史の中でこうしたシステムが生まれたことがなお信じられないほどだ。 (鎌田、01/23/2018)

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