ディズニーの「ソーシャル」な読書普及

DisneyMagicディズニーの出版部門 Disney Publishing Worldwide (DPW)は、読書普及のための慈善団体 First Book を通じて世界数十ヵ国の学校に児童図書を寄贈する新たなキャンペーンを開始する。「本へのアクセスで生活を変え、教育を向上させ、貧困からの脱出につなげる」というコンセプトだが、この財団の特徴は企業戦略と連携することだ。

巧みなマーケティング・プログラム

FirstBook新年1月1日から3月31日までの間、ディズニーの指定図書を提携店舗で購入し、本を持った自分の写真をメッセージを添えてTwitter か Instagram にタグ (#MagicOfStorytelling) でシェアすると、1点につき1冊がディズニーからFirst Bookに寄贈されるというしくみ(最大100万冊)。13歳以上の消費者にはディズニーが保有するオーラニ・リゾートへの招待が当たる懸賞もある。また、リーディング・プラットフォームDisney Story Centralのユーザーには親子で一緒に読めるE-Bookがプレゼントされる。期間中にはディズニーとABCが提供するMagic of Storytellingキャンペーンのイベントに招待される、といった企画もある。

Priyanka_Chopra.max-620x600つまり、本をプレゼントするのは購入者とディズニーで、プロモーションに協力したは購入者は定額プログラムへの加入が促されるという、巧妙なマーケティング・プログラムだ。E-Bookサービスの販促なのだが、紙の書店への配慮もあり、有名人、無名人の参加も見込める。ディズニーの実質負担はほとんどないかもしれない。これはソーシャル・マーケティングとは違うとは思うが、少なくとも出版社のマーケティングとしては有効で、今後も広がっていくと思われる。

ワシントンに慈善団体は無数にあり、読書普及を目的とした団体も多いが、社会起業家のカイル・ジマー氏が1992年に設立したFirst Bookは、「持続可能な市場駆動モデル」を旗印に成功を収めてきた。35万人の教育者のネットワークを通じて、世界30ヵ国の300万人以上の低所得世帯の児童を対象に、計1億7,000万冊の図書を届けてきたとしている。もちろんディズニーとの関係も長い。

Magic_of_ST出版は社会の基盤をなす教育と不可分な関係にある。難しいのは、そこに「読書」という個人的かつ社会的な行為が絡むことだ。ディズニーは読書の普及において Storytelling を前面に置いている。ストーリーテリングには適切な訳語がないが「語り聞かせる」創作行為と「耳を傾ける」読書に対応したもので、言語表現の前提にあるコミュニケーション(対話性)にフォーカスしている。

これは黙読と多読を推奨した伝統的読書教育の反省に立ったもので、日本の教育はまだこれを当然視している。その結果、音読できない大人、漢字の読めない大人が多くなり、コミュニケーションに問題を生ずる。「1日1冊」などの体育会的読書は、むしろ人々を読書から遠ざけるものだろう。コンピュータが「読む」時代に数など誇っても意味はない。「語り」を重視するディズニーの姿勢は、いまの読み手と同時に次世代の「語り手」を育てる出版社として好感が持てるものだ。 (鎌田、01/09/2018)

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