過去10年間、メディアはスマートフォンを中心として回ってきた。E-Bookもモバイル・パラダイムへの対応である。しかしいまEchoのように、ビッグデータ駆動のAIで機能するスマートスピーカが米国市場を席巻しつつある。2018年は「音声とスマート」を推進力とする新しいスタートへの起点となるだろう。21世紀の出版の拠り所は紙でも活字でもない。「言語コンテンツ」である。
「紙 vs. デジタル」の陰で進む活字出版の「失われた10年」
本誌はデジタル時代の出版を、コミュニケーション手段としての「メディア技術のデジタル化(流動化)に伴うコンテンツ、コンテナ、ビジネスの再編プロセスとして考えてきた。アマゾンKindleを「進化するビジネスモデル」として、10年にわたって観察してきたのは、この会社だけが再編において主導的・戦略的に関わってきたからにほかならない。幸いにして、この方法で変化の方向を見誤ったことはない。
ビジネスモデルの前提となるコミュニケーション環境は、1980年代の「PC革命」に始まり、1990年代半ばの「インターネット革命」(Web革命)、2000年代後半の「モバイル革命」(Web 2.0)と進化し、万能のモバイルとして「スマートフォン/タブレット」がメディアの中心となった。出版もこれにつられてオンライン(Web/Amazon/Kindleプラットフォーム)に重心が移行したことは周知の通りである。
しかし、それは流通における転換であって、コンテンツ(文字/組版)はそのまま、コンテナ(ブラウザ)は旧来の活字出版に対応している。もちろん、Web 2.0の影響を受けて、読書環境はデジタル中心に移行したが、コンテンツ(情報の構造/表現)のほうは変わったとは言い難い。E-Bookといっても見ているコンテンツはほぼ同じだ。デジタルへの移行が存外にスムーズだった反面、付加価値の乏しさが不満の種となり、価格が同じなら…という消費者が残るためだ。
スマート+ダイナミックで後れた活字出版
筆者は四半世紀以上前(!)に『電子出版』(オーム社)という本を上梓したが、そこではインテリジェントでダイナミックな「コンテンツ/コンテナ」技術をベースとした出版への進化を想定していた。大外れだが、これは技術ではなく「社会」がメディアの変化を受け容れる環境になかったためだと思っている。歴史はリニアには進まなかった。しかし、インターネットの普及以来の変化は、それまでの停滞を吹き飛ばす勢いで進んでいる。出版のデジタル化が停滞しているように見えるのは、「出版界」の対応が進まないだけで、実際には10年前と比べて風景は一変している。
- 情報流通のサイクルはデジタルを中心に完結し、印刷物は一部・補助的役割を担うに過ぎない。
- 出版流通もオンラインが中心となり、伝統的な書店流通は一部・補助的役割を担うに過ぎない。
- Kindleが開拓した自主出版が大市場として成立し、出版社は唯一のゲートキーパーの地位を失った。
- オーディオブックが活字本に代わって出版ビジネスの成長の核となった。
- アマゾンは活字コンテンツをもとに他メディアへの展開を進めている。
活字/ページの時代は終わり音声とAIがリードする
上記の1. は社会全体の現象であり、2~5. はアマゾンが主導し、在来出版社が積極的に関わっているのは、書店と関係が薄いと見られるオーディオブックだけである。いまや出版社はデジタル中心に転換した活字メディアビジネスにあって成長市場を失ったと言ってよい。出版が印刷本に回帰することはあり得ず、そこに止まればメディアビジネスの中での戦略的ポジションを失う。
筆者は、現状を「メディア技術のデジタル化」の新段階と考えている、注目しているのは
a. モバイルの遍在化によるメディアデバイスのユビキタス化
b. 音声言語がリードするインタフェースおよびコンテンツ
c. データ駆動のAIが推進するサービス機能が成長する「スマート化」
で、これらは一体となって進行している。モバイル革命ではガジェットやOSなどの「見えるIT」が主役だったのに対して、今回はむしろ主役は「見えないIT」となる。音声駆動のスマートスピーカ(VASS)が典型だが、もちろんスピーカは実体ではなく、AIと音声インタフェースという新しい「メタメディア」と言える。これらが次のメディア革命のカオである。スマートフォンは消えないがメディアに必要な輝きを失う。◆ (鎌田、01/18/2018)