「正装した本」の運命:ハードカバー

dummy_books英国の高級紙 The Guardian (02/25)の文化欄が、出版専門誌 The Booksellerのフィリップ・ジョーンズ編集長に、「なぜ出版社はハードカバーを先に出し続けるのか」と聞いている。英国では印刷本のフィクションで売上7,000万ポンド、シェア20%あまりに低下している背景があり、「なのになぜ」と聞いているわけだ。

点を取れない「不動の前衛」

The Digital Readerのネイト・ホフェルダー氏は「司祭が聖歌隊リーダーに、教会はなぜ偉大なのだろうか、と尋ねるようなものだ」と感想を漏らした (02/26)。もちろん、ジョーンズ編集長はハードカバーの意義を、高価格による利益率、読者への象徴的な品質保証、書評欄や版権市場での作家のステイタス、書店での注目度など、縷々述べている。ハードは高いから売れた時に余計嬉しいのだ。特別な本に限っては、読者も物理的に大きいハードカバー本に価値を認めている。正装した本は「よい」ものだ。しかし無条件に「よい」のか、出版の運命を託してよいほどか。筆者はそう思わない。

hardcover2初版のフォーマットとして、英国の出版社は当然のようにハードカバーを先行し、E-Bookを後にしている。米国では同時だ。マーケティング的に見て、売上の2割足らずのハードカバーに市場での「前衛」を任せるのは合理的とは思えないが、そうでもしないとさらに減ってしまうような気がしているのだろう。

本の外装やフォーマットの位置づけと扱いは、国によって異なり、米英の出版界では、伝統的に装丁にお金を懸けたハードカバーを優先し、単価が安いソフトカバーが下位にある。書店で扱わないE-Bookについてはまだコンセンサスはない。「価格統制」で20%あまりに維持しつつも、少なくともマーケティング上では欠かせないものと考えられているようだ。しかし、米国ではハードカバーが最上位なのに比べて、英国での凋落は著しい。スーツ(ハード)からカジュアル(ソフト)への重心の移行が進んでしまった。これには書店統計/出版者統計に載らないE-Bookと自主出版市場の存在が大きいと思われる。

フォーメーションを変える時

soccer formationオンライン版売のみをフォローするAuthor Earnings (AE)のデータによれば、2017年のE-Bookの市場シェアは、米国で42%、英国で34%(部数ベース)に達している。そしてE-Book市場における在来出版社のシェア(同前)は、米国で40%台、英国では50%台。3つのフォーマットをすべて持っているのは、非在来出版社が中心になっている。米国ではE-Bookでアマゾン出版やインディーズが過半を占め、書店に力を入れる在来出版社はハードカバーに、英国ではハードを絞り、ソフト中心にして残りをE-BookとA-Bookで売上規模を維持する方向に傾いているとみられる。

ジョーンズ編集長の言うように、出版界はなおハードカバーに大きな価値を置いている。それは筆者の年代の人間にはよく理解できるだろう。だが問題は、書店でも家賃を払えるほどの収入をもたらせないところに来ている。ハードカバーが(全体として)時代に合わなくなってきているとしたら、フォーメーションを変えて生き残りを図らないと、現在のメディア環境では「本」の出版はさらに難しくなる。もはや本を売るのが書店だけだった時代ではなく、配送までしてくれるオンラインストアがある。それどころか、本を売ることが書店にとっても重荷となってきているのだ。 (鎌田、02/27/2017)

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