アマゾンKindle Singles の方向転換

DKoonz印刷本(書店陳列本)のサイズに適合しない短編・小論をシリーズ化したKindle Singles (KS)は、2011年にスタートし、定着しているが、編集長の交替で編集方針を一変し、公募方式から重量級作家への直接委嘱方式にして業界を驚かせた。効果は一目瞭然で、Kindle発の「ビッグネーム」がベストセラー上位を独占している。その意図は何か?

Kindle Singles の転換:文化から娯楽へ

KSオリジナルで斬新なSinglesブランドを立上げたデイヴィッド・ブラム前編集長が、一昨年秋にAudible Publishingに転任した後を継いだのは、NBCのニュース・ジャーナリスト出身のジュリア・ソマーフェルド氏だが、ニューヨークの著名文化人であった前任者の路線を彼女が大胆に転換した。人気作家(俗にベストセラー製造工場とも揶揄される)ジェイムズ・パタースンの6篇をトップに、ディーン・クーンツ、ジョン・グリシャムらが並び、いずれも当然のようにNYTベストセラーを賑わせている。レビューはそれぞれ1,000本を超える。

71HGRh37uLL._SL500__BG0,0,0,0_FMpng_SR101,160_.jpg最大の特徴は、変わった取合せということ。著者の多くは日本でもおなじみの「紙の」ベストセラー作家で、出せば売れ、次作の版権料は最低でも億円単位の大物。当然のことながらKindleはおろかアマゾン・ブランドにもなじみがない大物だ。当然のことながら各国語に翻訳されるとみてよい。

ブラム編集長時代は、ニューヨークのインテリ好みのセレクションで、ライターもKDP Selectの著者が多かったが、2017年からは一転してマス・マーケティング路線だ。この転換はどういう意図なのだろうか。アマゾン出版はすべてのブランドの配置と機能を精密に設計し、試運転を十分にしてから稼働させており、読者とともに5年も機能してきたブランドの仕様変更は軽いものではない。アマゾンの出版戦略におけるKSの役割が新しい段階に入ったとみてよい。

ビッグファイブのようだが…

DBlumアマゾン出版(APub)は近年、全体としてビッグ・ファイブと似た傾向を示してきた。ニューヨークやフランクフルト、ロンドンのブックフェアでは有名著者との高額契約で話題となっているほどだ。アマゾンはなぜここへきて「ビッグ」を志向しているのだろうか。実際のところ、APはすでに最大手のペンギン・ランダムハウスを除いて「ビッグ」のレベルに達している。

APubは、一見すると一般の商業出版社と似ている。人材もすべて出版界のキャリア。1ダースあまりあるブランドの主なものは、SF、ファンタジー、ミステリやロマンスのような「ジャンル出版社」で、ここまでは大手出版社と同じ。しかし、翻訳出版のAmazon Crossingや復刊本のAmazonEncore、文芸雑誌のDay One、コミックのJet City Comicsのような機能・フォーマット別のブランドもあり、出版部門の共同発行人でもあるブラム氏が創設したKSは、「機能別」の中に入る。

業界人の目には、在来出版社と同じ部分しか目に入らないだろうが、筆者はこれこそが21世紀型のシステムとしてのAPubの中枢であると見ている。20世紀の巨大メディア傘下の老舗ブランド寄せ集めであるビッグファイブと異なる、アマゾンのオリジナルと言ってよいだろう。この戦略を主導しているのはおそらくブラム氏ではないか。 (鎌田、02/12/2017)

 

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