消費者から顧客へ

OaK楽天が出版取次3位の「大阪屋栗田」を子会社化することが新聞で報じられた。「ネットとリアルの融合」をキャッチフレーズにしているが、合わせたところで融合するものではなく、そもそも書店の「顧客」などは融通できるものではない。「顧客」は軽い言葉ではないのだ。それを可能とするビジネスモデルはあるのだろうか。いやあり得るのだろうか。

出版にとっての顧客

rakuten「事業の目的とは顧客の創造である」とドラッカーが喝破したように、顧客は「自分が相手にとって良い存在であると認めてもらう関係」であり、たんなる利益追求のための販売対象ではない。「消費者」を顧客と認識している経営者などほとんどいないだろう。それは「関係」を持つ対象ではなく、名前を知らなくても不自由なく商売が出来てきたからだ。

customer-orienationドラッカーの言葉が重い意味を持つのは、インターネットの登場以来一世代で、ビジネスにおける「消費者」が一変してしまったからだ。それはアマゾンが「消費者を顧客に変えるビジネスモデル」を発明したことによる。アマゾンが創業以来標榜する「顧客第一主義」は、ドラッカーの箴言と同様に「念仏」のようなものだと思われてきた。単純に価格第一主義の消費者に迎合すれば利益から遠ざかり、持続は不可能。それよりはライバルに勝って市場(価格)を支配するほうがまだ現実的だ。消費者に認めてもらう手段には、価格に頼らない「ブランド」があり、それは価格第一主義の消費者に迎合しても得られない。これは現在でもまだ常識だろう。20世紀の大衆消費社会は消費者に様々な幻想をもたせたが、市場はB2Bが基本だった。

Kindle版


筆者は「Kindle以後10年」を書いているが、その中で出版という古い産業の「外」にKindleという人工システムを新しい出版のビジネスモデルとして工学的に設計し、構築してきたアマゾンの一貫した意図と計算を考えざるを得なかった。そしてこの会社がなぜ出版から始めたのか、なぜいまも出版を新しいプラットフォーム(オンライン、モバイル、音声)の中心に置いているのか、という根本的疑問への答に近づけたと考えている。キーワードは「顧客体験(UX)」だが、出版とUXがどう結びつくか、いやそれがアマゾンの商売とどう結びつくかが問題だった。

ここでは結論だけを先に書いておくが、「出版の未来は明るい」ということだ。ばかみたいだが、そうなのだ。アマゾンが「書店」から始めたのは、「消費者が顧客になる」ことで巨大な小売市場への入り口となる稀有なビジネスだからだ。それが可能になったのはインターネットの登場。顧客サービスは、データベースとAIによって。本は社会/世界/を映し、広く、深い。その捉えどころなさが、無限に多様なコンテクストを提供し、「顧客」とのインタフェースを深めていく。

デジタルは、出版ビジネスを多様化させた。もはや、希少な「版」を複製して販売していた時代の常識に従う必要はない。本と出版はメディアの未来の中心にあるが、それは「歴史」があるからだ。紙の本は一つの歴史的フォーマット、書店は歴史的・文化施設で、それは機能として守らねばならないが、それは「顧客」にとっての共有資産だからだ。 (鎌田、03/06/2018)

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