Kindle以後ノート(2): 本の価値

UXperienceアマゾンは「版」を不動の基礎にした出版からの決別を宣言しつつ、旧出版の崩壊を嫌った。それは出版の至上の価値である歴史的継続性を損ない、出版の体験を浅いものにするからだろう。Googleの「スキャン」は革命的なアイデアだったが、あれはどうみても「破壊的」に過ぎた。アマゾンは本と出版に3つの価値を見ていると思われる。

ドキュメント、個人/体験/社会

ABooks_5第1に、書籍はドキュメント(記録・再生可能な知識情報の構造体)の一種であり、著者/テーマ/社会の関係から生まれた「内容」を持っている。それは(発信者と受信者の間で意味を持つ)ドキュメントとしての価値だ。

第2に、読書を通じて、個々の読者に様々な価値ある知的・精神的体験を与える。それは「ドキュメント性」によって、他の体験と違って記録・再現され、他のメディアと比べて相対的に共有が容易である。

第3に、様々な形での「出版」というプロセスを通じて、著者/出版社と読者/オーディエンスとのコミュニケーションがビジネスとして社会化され、ドキュメント性、体験性、社会性の3つが重なることでこの商品に独自の価値を持つ。

最大限の読者が利用するストアを通じて得られるリアルタイムのデジタルデータは、著者、タイトル、テーマの間で生まれる様々なコンテクストを提供する。「コンテクスト」は仮想的、確率論的なものであるが、更新されることによって、マーケティング上で意味を持つものとなる。

ビジネスモデルとしての顧客体験

Large_C_Green_w300個々のデータは時間軸によって蓄積され、仮説として洗練され、モデルとして実証されることで価値に転換される。それは取引の回数と体験のレベルによる。アマゾンにおいて、出版の3つの価値(ドキュメント性、体験性、社会性)は、読者体験の(継続的)向上によって、売上の拡大と顧客体験の(継続的)向上につなげるものとなっている。価格は「体験」を顧客にとって良いものにする有効な方法の一つだが、唯一の方法ではない。(相対的に)顧客を重視する姿勢を理解されるかどうかが重要であり、継続性、改善性によって「体験」は改善する。

3つの属性は顧客データを資源化することでパーソナライゼーションに役立てるもので、当然にもプライバシー問題を生じる。その問題は場合によってはビジネスモデルを崩壊に導きかねないものだ。しかし、アマゾンが賢明なところは、これまでところ「ユーザーのサービス向上以外のためには使わない」ことを疑わせる行動は取っていないことだろう。Facebookは信頼を裏切り、Googleは疑われ、アップルは極力プライバシーを扱わない姿勢を堅持する中で、アマゾンは原則を明確にすることで信頼関係を築くことに成功している。読書空間 Goodreadsはその成果と言える。 (鎌田、05/10/2018)

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連載記事

Kindle以後ノート(1)-(5)
1. 出版と読書の秩序 ┃ 2. 本の価値 ┃ 3. 王様のいない世界 ┃ 4. 仮想化 ┃ 5. Googleとアマゾン

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