Kindle以後ノート(4):「仮想化」

virtualization1『Kindleの十大発明』では、Kindleに大きな影響を与えた存在としてiPodをはじめとするジョブズの大発明について論じた。実際、Kindleを「規定」したものは、iPodのプラットフォームであったと言えよう。アマゾンは、iTunes/iDeviceに「規定」されつつも、まったく独自のアプローチを考えた。読書に必要なデバイスを「ガジェット」化するのではなく「仮想化」したのである。

ジョブズが目ざした頂点:ガジェットとしてのメディア

jobsガジェット(gadget)とは「新奇な仕掛けを含んだ小物」を意味する19世紀由来の英語だが、20世紀後半はまさにメディアガジェットの時代となった。スティーブ・ジョブズの生涯最後の三部作 (iPod/iPhone/iPad) は、その頂点をなすもので、その完成度は他を圧していた。アマゾンは 'kDevice' をつくったが、それらはガジェットではなく、クラウドに実体を置き、iDeviceや様々なAndroid、Windowsを含む様々なプラットフォームの上で稼働し、しかも「Kindleという共通の読書体験」を提供するものだった。それはもちろん、iDeviceのような一体感、パフォーマンス、ユニバーサルな機能は持たないが、少なくとも本を読むことについては、それぞれの特徴を発揮させつつ、Kindleとしてのアイデンティティを主張できるものだ。Kindleデバイスは、各種プラットフォーム+アプリの読書環境の中でも別格というわけではない。

「Kindleは本とガジェットのどちらに足場を置くのか」ということは、出版界から人材を確保するにあたってとくに問題となった。アマゾンは明確に「本である」と答えていたのだが、それは同時にデバイスから独立した「仮想システム」であることを意味した。Kindleを仮想化するという選択は、アマゾンのモバイル・ビジネスの出発点にあったはずだ。それはアマゾンが個々のユーザーの「読書体験の持続的改善」をマーケティングの中心に置いたことによる必然であったが、そうした戦略の差がコンテンツ・ビジネスにおける圧倒的な差となることに気づいた人はほとんどいなかったと思う。

アマゾンの仮想プラットフォーム戦略

Kindle_Lite2005年時点では、汎用のPCとモバイル、専用デバイスの3種類の環境を超えたクラウドでのオペレーションやパフォーマンスを調整させることは簡単ではなかったし、やりたい技術者は少なかったと思われる。アマゾンがあえてこの困難な仮想化戦略をとった理由は、このモバイル環境がアマゾンの「顧客体験」マーケティングにとって不可欠なものであり、逆に他のコマースとの差別化を決定づけるものとなるという以外には考えられない。アマゾンのアプローチについては説明されていないと思う。そこはジョブズ晩年のアップルのプラットフォームとガジェットにおける圧倒的な成功がある。

Kindleの成功と成長は、ほとんど粛々と達成されてきたように見えるが、その裏では独創的な技術的達成、大胆な決定があったことを、筆者は実感した。それはスティーブ・ジョブズのような巨人との対比で初めて理解できることだと思われる。 (鎌田、05/22/2018)

第2章 ガジェットにあらず
2-1. 天才が変えた「世界」と人間の運命
2-2. ジョブズの「誓戒」を破ったアップルの代償
2-3. ソフト、ハード、ネットワークの「惑星直列」
2-4.「Swatch」と「VALIS」

連載記事

Kindle以後ノート(1)-(5)
1. 出版と読書の秩序 ┃ 2. 本の価値 ┃ 3. 王様のいない世界 ┃ 4. 仮想化 ┃ 5. Googleとアマゾン

『Kindle以後10年(1):Web時代の出版とKindleの十大発明』
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