Kindle以後ノート(5):Googleとアマゾン

bookscan2クラウド/デバイスのプラットフォームを構築し、さらにガジェットを超えたメディアを創造したアップルに対して、アマゾンは「仮想化」という独創的な戦略で対抗することで、ガジェット競争に巻き込まれずに済んだ。しかし、サイバー世界にはまったく別の視点から出版と本に注目していた企業がいた。Googleである。

本を「脱構築」したGoogle

アップル・Googleとアマゾンの対決は、テクノロジーとメディアをめぐる21世紀初頭のビジネスのハイライトとも言えるものだった。アップルは20世紀最後のイノベーターだが、当然のことながら、21世紀初頭の時点では、多くの点で20世紀的性格を持っていたと思う。つまり、メーカー、ソフトウェア、ユーティリティ、サービス、メディアの区別が明確だった時代の、ということだ。にもかかわらず、率先して21世紀に橋渡しをしたという点で、スティーブ・ジョブズの偉大さは群を抜いている。

Sergey_Brin_Ted_20101990年代後半のWeb革命は、アマゾンをはじめ多くの新世代企業を誕生させた。この世代の企業は、産業間の境界の消失とサプライチェーンの統合、B2BからB2Cの転換を当然の前提としており、むしろそれを旧大企業に対するアドバンテージとして利用しようとしていた。安直な「ネットビジネス」が族生する中で、コア技術とビジネスモデルが堅固なのはアマゾンとGoogleだった。そしてアマゾンを除いて、最も早く本への野心を公式に表明したのはGoogleだ。

ロシア出身の計算機科学の天才で共同創業者、サーゲイ・ブリンは「検索エンジンでサポートされたデジタル・ライブラリ」を、大規模図書館の蔵書をスキャンすることで実現する構想 (Book Scan/Search)を発表し、出版関係者の度肝を抜いた。このアイデアは、学界から提起された同様のイニシアティブと違って、対象文献と利用者に限定をつけていなかった。世界中の本(Googleは、2010年の時点で1億2,986万4,880点と算定している)をオンラインで提供することにより、何世紀も続いた読書・出版と別の市場が成立するという。

本の一体性と読書体験を守ったKindle

amazonbooksすでに文字データの処理は、組版やレイアウトどころか、AIで「読む」ところへと進みつつあった。ブリン氏は過去の本すべてをデータベース化すると言うことで、21世紀がどういう時代なのかを示したのだ。その後のこの構想の運命はご存知の通りで、いまは話題からは消えてしまったのだが、まったくの出版アウトサイダーが、いきなりナマのコンテンツを自由に利用する究極の可能性を示したことの意味は深いものがあると思う。

Googleは、「本」の構成情報を「知識」の観点から脱構築(デコンストラクション)する意向を表明した。その関心は、本から「知識」を取り出すことにあり、本でも出版でもなかった。しかし、われわれはSF的未来を垣間見て動揺した。たぶん、出版界がアマゾン、アップル、その他のE-Bookに好意的な気分になったのは、少なくとも「本」をリスペクトしていたからだと思われる。

アマゾンはインターネット書店から始めただけあって、特に本をリスペクトしている。それは読書体験と読書空間を継続させてきた希少なものであり、多様性によって同社がそのビジネスモデルの基盤としたものだからだ。体験の一貫性を損なうならば、本の脱構築は回避すべきものだ。

ただし、在来の出版業にとって予想外だったのは、アマゾンは本の一体性は重視したが、「版を基礎とした紙の出版の脱構築」を不可避なものと考えたことだろう。Googleの「本の脱構築」と異なり、Kindleはまさに「出版の脱構築」のためのプロジェクトであった。しかし、そこには読書体験の維持のための様々な仕掛けが含まれている。
※脱構築については『Kindle十大発明』の第1章:出版のデジタル的脱構築、本/顧客のデータとITについては第4章:顧客志向の書店を参照。

連載記事

Kindle以後ノート(1)-(5)
1. 出版と読書の秩序 ┃ 2. 本の価値 ┃ 3. 王様のいない世界 ┃ 4. 仮想化 ┃ 5. Googleとアマゾン

『Kindle以後10年(1):Web時代の出版とKindleの十大発明』
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