Kindle以後ノート(10):メディアの仮想化

traditional-mediaアマゾンのコマース・サイトは最初から「メディア」を意図してつくられていることを意識するようになったのは、Kindle以後10年を書き始めてからだった。最近「リアル店舗はメディアになる」という副題の本が売れているが、あらためてメディアについて考えてみるべき時だろう。アマゾンに勝つにはメディアになれ、というのが売れている本のメッセージだ。

Web上の機能としてのメディア

アマゾンは物理的実体や媒体に頼らずに、Web上に機能としてのメディアをデザインした最初の世代の企業だ。彼らは「顧客体験」をもとに接客インタフェースを個別最適化することで「顧客第一主義」の信頼を蓄積するテクノロジーとビジネスモデルを構築した(いわゆる弾み車モデル)。

そして「いの一番」に選んだのが「本」で、それが万里の長城の土台となったことは(あまり知られていないが)しだいに受け容れられつつある。本はメディアとしては時代遅れと考えられていたのだが、創業者ベゾスは、本の原型は複製を産み出す「版」の呪力にあり、それがデジタルによって消滅あるいは「解放」されることを考えていたものと思える。

Kindleは、デジタル時代の本と出版の再構築のプロジェクトだった。それは生産と流通のシステムにとどまらないことに気づいたのは比較的最近のことだ。前回の『Kindle以後ノート(9)』に書いたように、ベゾスは版の経済価値ではなく、コミュニケーションにおける「媒体価値」(コンテクストの蓄積と顧客体験)のほうがより大きな価値を産み出すことを実証したのだ。ストアにおけるパーソナライゼーション、ユーザーレビューの共有、読書体験の社会化などはその第一歩であり、その上でKindleの仮想読書プラットフォームを機能させた。

UI/UXがメディアである

UXそうこうしてKindleは完全なメディアとして認知されるようになったのだが、アマゾンは最初から現在まで「顧客第一主義のよろずや」を標榜しており、メディアなどとは言っていない。この会社は形ではなくサービスの積み重ねによって実現される顧客体験を重視し、過去の高い象徴性を持った物理的メディア(宮殿、伽藍、百科事典・全集、ラジオ、映画館、TV、ショッピング・モール)のような実体性と実装環境に頼らないメディア性を獲得しているのだ。

メディアとは何か。それはコミュニケーションにおけるコンテクストであり体験である。メッセージを一方的に押しつける物理的実体としての多くの「メディア」は、デジタルによって魔法を解かれ、ただの物体に戻りつつある。21世紀におけるメディアは、パーソナライゼーションによって実現する「UI/UX」という仮想であり、そうでもなければ、意思を持ったリアルな人間(あるいは生き物)という身近な存在となるだろう。メディアはもう都会的、近代的なものである必要もない。 (鎌田、06/21/2018)

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