Kindle以後ノート(6):儲からない本の価値

Vamana_Avatarヴァーマナは、ヴィシュヌ神の第5の化身だ。神々に敵対するアスラのバリ王のもとに乞食少年として現れ、布施として「3歩分の土地」を求め、約束を得る。宇宙大に巨大化した彼は3歩で天と地と地底を押さえつけ、王を服属させた。さて、本屋として人々の前に現れたベゾスは「顧客第一」を約束し満足を得た。人々は買い物の際には、先にアマゾンのサイトを見ることにした。その後の展開はご存知の通り。

三歩で世界を得る

UXperience-280x150神話のポイントは「スケール」だ。バリ王は常識で判断したが、「無限」を武器とするヴァーマナは、1歩を一次元とすることで全世界を支配する力を見せた。後半のちゃらっぽこのポイントは「本」ということ。本には世界を征服する力があるとベゾス氏は考えた。そして本で満足したお客からは満足と信頼を得ることを発見して1995年に創業した。

本という商品がほとんど儲からないものであることは、儲かった経験のある人まで知っている。それは「版」を得るまでの手間とコストに対して、「版」を複製して得る収益が不確実(というよりは赤字がほぼ確実)であるからだ。それでも人々が出版に挑戦してきたのは、本はただの商品ではなく、社会で共有され称賛を得る聖杯ともなり、そんな暁にはおカネにもなるという「夢」だったからだ。もちろん、それは「著者」の夢を真に受けた少数の人々(合わせるとそう少なくない)だろう。しかし、ゴールドラッシュで儲けたリーバイスを筆頭(?)に、スコップやロバなどを供給した商人たちがいたように、本にも関連ビジネスがあったし、これからもあるだろう。

ほとんど儲からないが社会が必要とする出版の秘密

しかし、デジタルに流された出版は「版」という確実な頼りを失って漂流を始めた。20世紀の終わりに考えられたのは、「コンテンツ化」であり、販売収入と広告収入が期待されたが、とくに後者は期待外れだった。少なくともガジェットの販売の役には立つと思われたが、メーカーで儲かったのはアップルくらいだった。次に、Googleがコンテンツのデータ化(ゲノム化)という真に21世紀的なモデルを考えたが、これは価値を利用できるのがほとんどGoogleだけだったので、ビジネスモデルにもならず、共有もされなかった。第3のモデルはなく、紙の遺産をしゃぶり尽くすしかないのか。デジタルで市場が縮小し、さらに細分化するなかで、儲かるのはアマゾンだけか。

しかし、ある日こう考えた。出版市場が現在のペースで縮小を続けたら、出版のエコシステムは遠からず崩壊する。商業的利益を生まない限り、ビジネスとしての出版は消滅するが、その時誰が一番困るのかといえば「アマゾン」である。少なくとも「本から始まるサイクル」は止まり、本をフライホイール(弾み車)とするビジネスモデルは回転に膨大なエネルギーを要するようになる。巨大な神は見る間に縮小するだろう。アマゾンの力は成長の持続性であり、そして持続する成長の基点は本だ。それでは、本の未知の価値とは何か。

*UXを駆動源とするアマゾンのビジネスモデルについては『十大発明』(第4章:顧客志向の書店=パーソナライゼーションとIT)参照、第2冊目の『リアルとデジタルを超えたビジネス』においても説明する。

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