Kindle以後ノート(8):出版における第三者

who資源の希少性/非対称性は、新聞、放送、出版という伝統的なメディアビジネスの大前提だった。それがインターネットという無限空間に放り出されたことで起きる現象を、われわれは目にしている。ネットでは、見つけることと見つけられることが大きな問題になり、そうしたことから超越していたブランドが一転して苦闘を強いられていることは周知の通り。そしてアマゾンは新しい前提から新しいルールをつくった。

メディアの没落によって失われたキュレーション

traditional-mediaインターネットが、伝統的な「1:1」「1:N」に加えて「N:N」のコミュニケーションを可能にしたことはよく知られている。しかし、相手が一人でも1億人でも、情報発信が可能なのは、相手にとって意味を持つコンテクスト (5W1H)を持っている場合だけで、見ず知らずの人の情報が共鳴現象を起こし、しかも好意的反応をもたらすのは稀で、予測不能だ。在来メディアの威光が落ちる一方で、新しいWebメディアが信頼性を得られた例は少ない。前者は、独占によるゲートキーパーの腐敗(私物化)の結果で、インターネット民主主義が素晴らしかったからではない。

bestsellers-280x150在来メディアにおけるキュレーション機能は、「1:N」を階層化することで、一定の基準におけるハイレベルなものを抽出していた。予選からトーナメントを経て選抜するようなものだ。経済的リスクがあるので、ベストではないだろうがワーストでもない。出版社の格によって、書評でも取りげられる機会は多い。社会的コンテクストの調整は、メディアや著者に依存する。現在の状況は、以下のようなものであると思われる。

  • 在来メディアは量的にも質的にも影響力を低下させている。
  • Webメディアは、かつての在来メディアと同水準の信頼性と影響力を得られていない。
  • 在来メディアはWebを含めた顧客価値(ビジネスモデル)の再構築が必要である。

20世紀の出版は、弱い流通をショットガンのような威力を持つ雑誌や、マスメディアとの共棲関係によって補うことでマス市場にも対応してきたが、雑誌(高速印刷/配布)が広告で維持できなくなった打撃が大きく、また書店ネットワークも維持できなくなっている。日本の出版はマンガと雑誌に支えられてきた(それが「取次制度」の本質だ)が、それらが欠けると、残りはアマゾンしかない。アマゾンに依存するにせよ、しないにせよ、必要とされるのは、出版におけるキュレーションとコミュニケーションの再構築であると思う。しかし、開放系の社会でのキュレーションは簡単ではない。

読書においてはなおさらだ。前著(Kindleの十大発明)では、ユーザーレビューとGoodreads(ソーシャル読書空間)を取上げたが、それは「読者」キュレーションの一面であって、出版のプロフェッショナルな視点(編集)からの専門的レビューではない。両者を区別することでより創造的なキュレーションが可能になるし、「ソーシャルなエディティング」にも接近するだろう。

※BOOK I 『Kindleの十大発明』第3章「メディアとしてのストアと読書空間」参照

読者が想定できないとコンテンツは完結しない

では、以前は誰がやっていたのか。多くの場合、出版社に属する編集者である。書物は、出版物としての完成形(仕様)が決まることによって初めて製作が始まるので、それ以前の素材はすべて「原稿」素材である。仕様は、読者が想定できないと、コンテンツとして完成しない。筆者も最近まで忘れていたのだが、原稿は編集によって初めて本のコンテンツとして最終化される。その場合の編集とは、想定読者に対するコンテクストの最適化であり、文体や表現、構成、見出しの変更を伴う。ノンフィクションほど多く、フィクションでも手をかければ限がないほどだ。編集者が著者と同等以上の比重を持つことがあるのは、著者以上のキュレーターでありクリエイターである場合だ。

crowdsource3自主出版本はもちろん、在来出版本でも採算水準達成率が3割に満たないのは、コンテクストが最適化されていないためだ。読者対象、読者の関心と読書傾向、文章表現、目次構成、表紙デザイン、価格などは、内容の完成度だけではなく、出版の成否に直結する。この最適化の精度を高めない限り、出版はマーケティング、編集の最適化の方向を掴めず、没落を速めるだろう。

逆に言えば、キュレーションのプロセスをソーシャルに共有化することで一部代替出来れば、在来出版本はもちろん、自主出版本でも採算性がまずまずのレベルとなる。

crowd-source-280x150「情報の非対称」は、コミュニケーションにおける本質的なもので、インターネットにおける「N:N」も仮想の話だ。むしろ、「1:N」の階層やノードをどう再組織化するかということが、インターネット時代のコミュニケーションの鍵になっている。アマゾンは最初から「1:N」のNを全消費者として設定しており、その間を積分していくというアプローチをとった。ロングテールの方法を確立すれば、本で損をしないマーケティング上の公式を確立することも出来るだろう。しかし、アマゾンでなくても、読者/読書空間が限定出来ればキュレーションを機能させることができる。それがオーディエンスのマーケティングである。 (鎌田、06/12/2018)

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