出版の課題は同じ、チャンスも同じ

illiteracy出版は歴史的な転換期にある。しかも不況期だ。「頭を隠しても元には戻れない」と語るケイラブ・メースン氏は、エンゲージメントと読者を減らさないことの重要性を説く。本をまったく読まない人口が3割近くに達したかつての読書大国の米国は、歴史的な挑戦に立ち上がる人がいる。これは出版関係者から聞く久々に力強いメッセージだ。

米国で非読書層が3割に近づいた

米国で文字出版の衰退が意識されるようになってきた。読書のような、個人と社会の接点となる活動を観察するには、出版(市場)と読書(社会)の両側を見なければならず、当然のことながら、大きな仕掛けが必要となる。後者は「メディア行動」というマクロな現象の一部を、継続的に、統計学的に観察して社会の変化を仮説的に推定することが重要となるからだ。市場調査というより社会調査の専門家が必要となる。

この分野ではメディア研究の蓄積と人材が豊富な米国の調査に期待していたのだが、Web以後25年、Kindle登場以後10年にして、ようやくデータが揃ってきた。ギャラップ社とピュー・リサーチが行った調査データもその一つだ。

bookbusinessmag

日常的に本をまったく読まない人々 (以下=NRB)に注目したこの研究は、1978年、2011年、2014年という40年にまたがる3つの時点で、NRB人口を、それぞれ8%、18%、23%としている、近年は23-27%あまりで推移しているが、30%に達する可能性もあるとみられる。

35mmフィルムやCDなど「消えた」メディアテクノロジーの業界を経験した後、ソーシャルな文芸出版社 (Publerati)を創業しているケイラブ・メースン氏は、5月9日のブログで、こうした長期傾向を顧みることなく、E-Bookの売上が落ちたことを出版関係者が喜んでいることに呆れている。「彼らは自分たちの墓場で死の舞踏を踊っているのか?」

メースン氏が見るように、インターネットの普及以来、スクリーン・デバイスで利用できるモバイルメディアの利用が広がり、印刷本を中心に読書の時間が低下している。映像系のスクリーン・メディアが活字系を圧倒していると言っても過言ではない。他方で出版産業は、E-Bookの価格を引上げて、電子読書の普及を抑制してきたスクリーン・メディアで孤軍奮闘するE-Bookの普及を助けるのではなく、頭だけを隠して嵐の過ぎ去るのを待つようなことをやってきた。

値下げは市場への適応

phone_reading-280x150こうした業界の対応は珍しいことではなく、かつてコダックなどの業界が主導していたPhoto Marketing Associationは、現実世界から目を背ける調査を行っていた。出版社がデジタルの潜在価値を無視して、印刷本のみを商品と考えた発想も理解できる。しかし、不況期にはかつて楽にできたことすら困難になる。印刷本は小ロットが常態化し、いまE-Bookで売上を上げるのは5年前より遥かに難しい。「値上げ体験」は、熱心な読者ほど記憶に刻み、エンゲージメントのレベルを悪化させた。買ってくれるタイトルと金額はより少ないだろう。

出版業界はアマゾンの「低価格」で利益が薄くなったことを呪った。Barnes & Nobleが1986年にやったことを思い出し、アマゾンも同じ運命に見舞われることを願うのだが、そうはならない。問題は本の市場が縮小していることで、アマゾンが本の値を下げたことではない、とメースン氏は言う。在来出版ビジネスは(デジタル革命その他)様々な要因で構造不況に向かっていて、E-Bookは不況期を乗り切る戦略で選択の余地は少なかった。15ドルの新刊本は、買い気を失っている人には魅力的ではない。

「頭を隠しても元には戻れない。出版は前進するか後退するかしかない。あるのは同じ問題だ。デジタルを脅威と見るかチャンスと見るか。実際のところ両方ともにあるのだが、チャンスだけは忘れないようにしよう。」

メースン氏はデジタルになお多くの機会があると確信している。筆者もまったく同感だ。オーディエンスとエンゲージメントを育てる戦略があれば、チャンスはいくらでもある。 (鎌田、07/19/2018)

※今週号 関連記事
デジタル化と「メディア格差」(♥会員向け)

Print Friendly, PDF & Email
Send to Kindle
Pocket

Share