Kindle以後ノート (14):消えた道標

UXperience商品と市場の構造転換は、統計などのビジネスインフラに大きな影響を与える。流通(コマース)と商品形態(コンテンツ)が従来方式では計測できなくなるからだが、それだけなら新しいチャネルからデータを得ればよいだけのことだ。米国の出版においてその是正努力が実を結んでこなかったのは、チャネルごとの利害関係が複雑であったためだ。

2014-5年の嵐

AER0217_unit市場が極度に細分化されているのは、出版の特徴である。大出版社(メーカー)が「ベストセラー」という特別な商品の周辺にしか生まれないのは、生産規模を拡大するほどの利益が例外的にしか生まれないためだ。出版は化粧品や薬品のようにはいかなかった。近世/近代以来の工場制手工業のエコシステムの上に「現代」的な修正が施されて活字印刷出版という古風な市場が続いてきたという点は、この業界の独特な魅力だったが、最先端の情報流通(つまりWeb)と接点を持ったことで大転換を経験することになった。

米国で大小の「出版者」は7万ほどになるが、業界団体であるAAP加盟企業はその20分の1に満たない。その売上統計は1200社、1800社など、一部しか採録していない。それも卸販売額のみで小売販売額を知るには書店の数字によるしかないが、いくつもの系統に分かれる。詳細・正確なPOSデータの速報値を出すサービスが整備される方向にあったが、オンラインがシェアを高めるにつれて、捕捉率は低く、信頼性も失われていった。日本の統計には問題も多いが、米国はそれ以上で、関係者にとっても「欠陥」が認識されている。

きっかけは、2014-15年に吹き荒れた第2次価格戦争、つまりiPad登場を契機とした2010-12年の「第1次」が独禁法問題を誘発して大手5社とアップルが「アマゾン価格を強いられただけでなく賠償金まで取られた事件の後、出版社が個別に「委託販売契約」をアマゾンに迫り、価格再引上げという絶望的な戦いを挑んだことによる。結果は、出版社の意図と反したものとなった。

  • 著者と読者によるKDP市場の成長
  • 大手出版社のE-Book市場シェアの低下
  • アマゾンの印刷本値引きによるシェア増加

新しい市場と「読書体験」

著者と読者の中間にいる「強者」が、E-Bookの成長を拒否した結果、中間が排除されたという結果だ。2014-16年には「紙の復活」「書店の復活」を喧伝してくれたメディアも、2017年に現実を知ったことで、出版ビジネスモデルへの関心を失ってしまった。オンラインに「印刷」時代のブランド価値を押し付けるのは無理で、本を読むためだけに書店に出かける時代は過ぎ去っており、本も別のメディアと競争しなければならないということだ。そこでは適正価格でないタイトルは売れず、売れない出版は無意味である。

大出版社が優位を示すことが出来た「街の書店」は力を失っており、新しい現実は著者や出版社の「ネームバリュー」より、Webで消費者(あるいはオーディエンス)に訴求する「コンテクスト」が意味を持つ。それはアマゾンが収集している「読書体験」にほかならない。そして、伝統的な市場観では、本の価値は版の複製価値(部数×価格)以上のものではなかったが、明日の価値を問題にする「読書体験」は、販売金額以上に読んだ読者と体験の質を問題にする。

伝統的な市場統計(版の複製価値)は、出版によるROIという短期的金銭価値しか見ないし、それは出版社以外にとっての意味は少ない。現在はアマゾンが社内的に活用している「読書体験」は、現在「既読ページ数」として部分的に公表されているだけだが、どのように社会に共有されるだろうか。デジタル時代の市場の尺度はまだ表れていない。 (鎌田、07/26/2018)

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