コンテンツ市場の拡大 vs. 違法取締

IViR_Piracy Report欧州の学術研究機関がGoogleの支援の下に行った海賊コンテンツ被害調査レポート全文)によれば、2014-17年の3年間で欧州の「窃書」は近年低下の傾向がみられ、規制よりも市場環境の整備によって問題が前向きに改善される傾向が示された。海賊は市場の未成熟によるもので、取締りは後進性を固定化すると考える本誌の主張を支持するように思われる。

最大の研究機関IViRの大規模調査

IViR1989年に設立されたアムステルダム大学情報法研究所 (Institute for Information Law (IViR)は、ITと法律に関する研究では世界最大の機関(研究員25名)で、海賊版問題の研究でも知られる。調査は13ヵ国の14歳以上の35,000人を対象とした大規模なもので、対象国は、ブラジル、フランス、カナダ、ドイツ、香港、インドネシア、日本、オランダ、ポーランド、スペイン、スウェーデン、タイ、英国の13ヵ国。つまり、米国と中国といったサイズも性格も特異な2国を除く、相対的に比較可能な国々が選ばれている。回答者は過去の調査と共通しており、属性は安定している。Global Online Piracy Studyの調査目的は以下の3点。

  • 合法的取得(購入)とオンライン窃取に関する実情確認
  • 動機およびメカニズムの選択に取締と合法的提供が与える影響
  • 合法ソースでの消費にオンライン窃盗が与える影響

IViRによれば、本の読者(オーディエンス)は「購入」とともに「窃書」も行っており、あえて言えば「使い分け」ている。「窃書」層の95%は純然たる非「購入」層より2倍あまり多くの本を読んでいるという。彼らは活発なメディア消費層であり、価格や入手性に応じて「窃書」を使っているが、合法的コンテンツの整備とともに「窃書」の利用は低下している。「窃書」層を「海賊」視するのが見当外れであることが分かる。「窃書」が活発なのは、インドネシア、タイ、ブラジルといった新興国で、スペイン、ポーランドが続く。対象には含まれていないが、ロシアでも「海賊」は問題になっているから、東欧でも相対的に多いと思われる。

コンテンツ窃取(海賊)は市場と経済の問題

有償サービス(利益)の窃取は、不法行為ではあっても、財物とは異なり「窃盗罪」という一般刑事犯罪は問えない。社会が守るべき価値が自明ではないからだ。「痴漢は犯罪」だが「食い逃げは犯罪」ではない、ということはあまり知られていない。オンライン窃取を取締るためには特別な法律が必要になり、この利益窃取の法的性格と、規制手段とコストに関する社会的議論が各国で行われている。日本ではメディアや法律家が「窃取は犯罪」と最初から決めつけてかかるので、遵法精神に富んだ国民性が刺激されて議論が困難になる。その弊害は、規制立法と運用過程の政治化と、健全な市場の発展が阻害されることで、日本の場合は、出版のデジタル化の停滞と違法マンガ・サイトの盛行という形で市場に打撃を与えた。

健全な市場の発展は、市場の健全性についての市民のリテラシーと、法律家の社会性と、行政のバランス感覚の結果である。オンライン窃取に関するセンセーショナルなキャンペーンは、天文学的な「仮想被害」見積りとともに各国で流されたが、ViRのレポートでは、「海賊」はほとんどが幻で、基本的には市場と経済の問題であることが示された。 (鎌田、08/10/2018)

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