Kindle以後ノート (15):デジタルのゴール

how-author-4-publishedKindle/KDPが、米国で「自主出版」の爆発的拡大をもたらした時、これこそデジタルの結果だと確信した。しかし、その意味は分からなかった。無数の「著者」が産み出す「出版物」の洪水。ゼロはいくら足しても掛けてもゼロ…のはずだ。この考えを改めたのは5年以上を経てからだった。ゼロはやはり偉大だ。

デジタル転換の「ゴール」は何か

gutenberg revolution出版へのデジタル技術の導入は半世紀あまり前から始まっており、印刷および流通をそれぞれ独立に支援するものとして発展してきたが、最終的なゴールは共有されなかった。20世紀の末まで、デジタルへの投資の主役は、製造(印刷)と流通(書店)であり、出版社ではなかった。出版とデジタルといえばCD-ROM辞書くらい。既存の分業関係に影響を与えないためだ。

印刷本には問題も制約も多かったが、出版社にとって居心地の悪いものではなく、何よりも仕事の流れが安定していたのが、他に代えがたい魅力、というより考える余地を無くさせてきた理由だ。外からの侵入のみを恐れる出版社にとって、製造・流通の制約はゲームのルールと考えれば心強い壁だ。しかし、20世紀の終わりにWebが登場し、状況は一変した。著者(執筆)から読者(読者)に至るすべての工程を巻き込んだメタ・メディアであるWebが普及しなかったら、出版はほとんど何も変わらなかっただろうと、いまでも思う。

「出版の民主化」は、グーテンベルク(金属活字印刷)革命のゴールだった。写字僧の手を借りていたそれ以前の出版は、生産性で大きな制約があったからだ。グーテンベルク革命は、印刷と出版業の「民主化」という点ではたしかに革命だった。その上で実現した生産性が多くのことを可能にしたが、それ以後の進化は生産性にフォーカスされており、それが出版業の成長の性格を規定していた。つまり、ビジネスの民主化ではあっても、著者にとっての民主化ではなかった。誰でも「著者」として読者にアクセスするようなことは不可能だった。活字製版と印刷製本と流通という、著者にとっては高いハードルが残ったからだ。

「著者」の独立

authorsデジタルによって出版が変わるには2つの要素が必要だった。ひとつは「出版社」から「消費者」までのプロセスが物理的制約(ボトルネック)なしにつながり、ストアとE-Readerがつながること。しかし、それだけでは足りない。

考えるべきもう一つの要素は、別の側面、つまり「コンテンツ」がつくられるまでのことだ。デジタルがコンテンツの搬送と共有だけならば、著者にとってのメリットはそう大きなものではない。著者にとって重要なことは、(1) 自由なスケジュール設定、(2)自由な価格設定、 (3) 自由な販売方法、(4)読者とのつながり、そして何より (5) 高いマージンだ。クリエイターは自由を求め、出版社は利益を求める。欧米では、出版社は著者との契約の際に前渡金を支払い、プロデューサーが編集・制作から販売までのプロジェクトを仕切る。それによって著者の介入を封じるのだが、条件は力関係で決まる。著者がデジタルに最も期待したのが、「収入と自由」であったことは言うまでもない。著者にとって、デジタルで革命があるとすれば、それらと無関係なものでは意味がない。しかし、それは業界秩序を根底から覆すことを意味した。つまり、著者とオーディエンスの直結を許容する近代の「出版の自由」に対する、現代の自由である。

デジタル・ファーストという革命

デジタルは、出版に必要なすべてをWeb上で完結することを可能にしたが、紙を越境することで出版社の「主権」を侵害するソリューションは、既存のエコシステムの外で生まれるしかなかった。周知のように、これを最初から予想し、準備していたのがアマゾンである。アマゾンは「消費者第一主義」で知られるが、出版システムにおける消費者は「読者」だけではないことを知っていた。著者もまた消費者であり、生産者、マーケッターでもある。著者が動けば「著者と読者をつなぐバリューチェーン」は機能する。アマゾンはKindleと同時に、著者をパートナーとするプラットフォームを設計、構築した。クリエイターとしての著者を「不可欠」なパートナーとしたのだ。すべてのプラットフォームがその後に続くことは明らかだった。

デジタルは出版ビジネスにおける物理的コストを最小化し、ビジネスモデルを自在に構築できる。著者が「デジタル・ファースト」を選択することで従来のリスク/コストモデルは相対化される。これはグーテンベルク革命よりはるかに容易だったが、別の問題があった。 次回に続く  (鎌田、08/10/2018)

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