アマゾンKDPのインドでの挑戦

220px-Hindi.svgインド市場を重視するアマゾンは10月16日、5つの言語でKDP出版を対応させたことを発表した。「多言語」を利点に変えることは「出版市場から始める」独自の基本戦略のひとつで、話者3,000万人以上で13を数える言語市場の3分の1あまりをカバーしたことは、最初のゴールを達成したことになる。多様性こそ力なのだ。

地方からインド全土へ

800px-Word_Tamil.svg新たに対応したのは、ヒンディ語 (258百万人)、タミル語(71.7百万人)、マラーティ語(60.7百万人)、グジャラート語(45.7百万人)、マラヤーラム語(33百万人)で、話者を合計すると4億700万人ほどになる。これでもなおインド市場の3分の1に達しないが、ローカル・レベルからの自主出版の振興によって、インドの出版を発280px-Gujarati_Script_Sample.svg展させるというモデルは成功するだろう。KDPは、潜在市場のわりに在来出版が小さいインドをデジタルによって急成長させる鍵となるものだ。

310px-Malayalam_Script_Sample.svgインドの文化は、地域ごとのローカル色が強いことが魅力だが、言語・文化に依存する出版は、技術的、経済的に「多様性」問題を解決できなかった。活字印刷が要求する市場圏の規模、消費者の経済力に、出版業界(出版・印刷・配送・書店)が対応できなかったためである。ゼロから出版のエコシステムを構築することに自信を持つアマゾンだが、インドという巨大な「世界」を相手とすることはないと思われた。

896px-Malayalamname.svg米国は市場として多様かつ巨大だが、インドに比べれば「均質」と言える。インドの出版はアマゾンのビジネスモデルにとっての最大の挑戦だった。出版ビジネスが未発達で全国的な有名作家も多いとは言えないインドで、その言語的多様性と市場の狭隘性の問題を克服できたとすれば、アマゾンはモバイル・インフラがある限り無敵だという証明になるかもしれない。インドの実験は、出版の歴史における事件である。

デジタルはコミュニケーションを変え、ビジネスを変えた

Pathak-195x300西欧主導の「近代」は、言語的集約化から始まった。グーテンベルクの技術が国語(文章語)の統一を促進したことは言うまでもない。「イタリア語」が北のトスカーナで、「フランス語」パリで生まれ、ドイツ語はプロテスタントの多いザクセンで生まれたが普及には時間がかかった。日本語は活字出版に合わせて東京でつくられ、義務教育と兵役で普及した。そう昔のことではない。他方で、インドは数千年の言語文化を持ちながら(独立以後も)言語の統一が「遅れ」、そのことがこの国の「前近代性」の象徴とされてきたのは周知のとおりだ。(写真はヒンディー語人気スリラー作家 Surendra Mohan Pathakの本のカバー)

しかし、デジタルという「機械」に代わる「言語」によるテクノロジー・パラダイムがゲームの・ルールを変えた。インドの言語的(文化的)多様性は、とくにITにおいて圧倒的な「優位」として発揮され、次いでグローバル・ビジネスで実力を示した。彼らは、共通語としての英語やヒンディー語のほかに、州の公用語や地域の生活言語が混在する環境に慣れていて「不便」を感じない。人々がコミュニケーション上の必要によって言語を使い分けるのは当たり前のことなのだ。これは、たとえば米国人や日本人との最大の違いだ。

インドの出版は、ビジネスとテクノロジーでは英語、それ以外では話者人口が2億人以上のヒンディーによるコンテンツが多数を占める。母語話者が1億人以下の「少数言語」の出版物は相対的に少なく、20世紀の常識では「淘汰」されるはずだが、インドでは言語コンテンツは吹替えによる映像が大市場になるが、表記文字体系が異なる文字コンテンツは、好まれないために出版は大きな市場にならない。欧米の出版社は英語市場で満足するが、アマゾンが違うのは、母語オリジナル・コンテンツと表記文字に対応することで「より大きい(深い)市場」にアクセスすることを目ざしている点だ。生活言語に近いほど、言語コンテンツ市場は大きく、消費者の支持を受ける可能性が高まるからだ。顧客志向は、出版から始まるという創業以来の原理に忠実である。

多様=豊穣なグローバリゼーションの可能性

Amazon_India2言語における優位とは、かつては「話者/読者人口」を意味したが、デジタルによって金属活字の価値=コストが暴落して以来、言語における話者人口の優位は相対化された。出版社にとっては重要だが、オンライン書店にとっては言語人口は問題ではなくなり、売れるかどうかが重視されるということだ。インドでは「母語出版」がブームになることが予想されている。アマゾンはすでにかなり前から準備を始めていた。

アマゾンは大企業的でないところは、消費者に対しては「選択と集中」をしないことだ。これはパーソナライゼーションが可能であるばかりか必須でもある、デジタル時代のルールに対応したことを意味する。だから、出版がアマゾンにとって重要な存在ということは、グーテンベルク以後の出版にとってアマゾンが重要な存在ということを意味する。グーテンベルク出版には敵だが、21世紀の出版には最高のパートナーという現実を、出版界はいつ受け容れるだろう。 (鎌田、10/22/2018)

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