出版市場とデータの歴史 (1):Webの霧

fog出版における「版元・取次・書店」の安定した関係は、歴史的に最も強固なものだった。これは出版業が発達した国に共通する世界的なもので、産業革命以前には成立していて、木版印刷の江戸期日本においてそうだったように、活字印刷以前にさかのぼる。この「鉄の三角形」が出版活動の全体を意味しなくなる時である。

鉄の三角形とアマゾンの三角形

Web(デジタル)はこの三角形を自由に書換える可能性を与えた。なぜなら、上記の三角形には、著者と読者という(常識的には)最も重要なステークホルダーが欠けており、もし直結したならば、鉄の三角形は錆びついて機能を低下させるからだ。アマゾンはこの「隠れたステークホルダー」を前面に引き出し、伝統的な「ゲートキーパー=スタビライザー」支配を変えようとした。そうした動機は、商品としての本が儲かるからではない。本の隠れた社会的機能を発見し、それをコマースにおけるエンジンとする原理を発見したからだ。

筆者は前著『Kindleの十大発明』執筆中にこれを発見したが、顧客体験(UX)理論にもとづく、AI顧客管理システムで支えられている。版の複製によって得られる経済価値で成立つ伝統的システムに対して、「読まれる」ことの付加価値を経済価値に転換する仕組み(エコシステム)を持つので、販売部数、価格、コスト、マージンという閉じたシステムのなかで発生する価値に規定されない。つまり、アマゾン独自の出版三角形を機能させることが、同社のビジネスモデルに最適なのだ。同社は、印刷本在来出版からE-Book自主出版、あるいは定額制まで、様々な出版モデルを実験しつつ、アマゾン三角形の有効性を検証しているはずだ。

拡大するオンライン世界、停滞する印刷世界

出版における新しい(アマゾンの)トライアングルは、1996年のAmazon.com(在来出版本、オンライン販売)とともに始まり、2005年のCreatespace(自主出版支援、オープン)で一歩外に踏み出し、2007年のKindle(E-Book+KDP)でクラウド上に独自のエコシステムを完結させた。1996年にゼロから拡大を始めたが、ここから旧三角形を前提とした市場の計測システムの問題が生じることはビデオゲーム産業の場合と同じだ。しかし、以下の3点で違っていた。

  • 新しいジャンルやチャネルの創出活動が旺盛なビデオゲーム産業と違って、出版の場合にはあまりに旧システムが強固で、閉じていた分、現実への対応は遅かった。
  • 最大書店のB&Nは、印刷本とE-Bookのジレンマに悩んだ末に、後者の拡大を忌避したので、E-Bookはアマゾン占有率が圧倒的に高くなった。
  • 出版はE-Book市場のデータ公開を望まず、アマゾンもオンラインや自主出版を「沈黙の市場」とすることを問題とは思わなかった可能性が強い。

本来は、市場の変化を早く掴む必要があったのは旧世界のほうだったのだし、対応も早かったはずだが、やはり事態の意味を理解していなかったのだろう。アマゾンは情報における大きなアドバンテージを得ることが出来た。(つづく) (鎌田、11/22/2018)

出版市場とデータの歴史(2):闇から光明へ (♥=会員向け記事)

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