台風の目:Audibleの謎

hurricane2アマゾンと同じ年に誕生したAudibleは、現在のオーナーのアマゾンとは逆に、ネットバブルの中で揉まれ、方向転換を繰返しながら「音声言語出版」にフォーカスしたことで、2008年以来、アマゾン戦略の一翼を担うことになった。アマゾンはAudibleを得たことで、Kindleの成功の確信を得たと思われる。それはオーディオが最も出版の明日を代表するからだ。

独立企業としての前身

Audible_Echo-280x150アマゾンとはもはや分割不可能に違いが、Audibleを時価総額で表現すれば100億ドルは優に超えるだろう。ACXや定額制モデルを含めて、アマゾンと相似形のプラットフォームを持つほか、在来出版社やアップル・ユーザーとの密接な関係を含めて、IT、メディア業界とも幅広い関係を維持している、「らしくない」ところが同社の不思議なところだろう。オーディオブックは在来出版からデジタル・ネイティブまでを含めて、最も成長力が大きい単一市場で、現在の大出版社グループの経営を再編に導くことになると思われる。そこまでに成長したのにはAudibleという「ネットバブル」の生残りの不思議な力がある。

周知のように、今日的なオーディオブック(ダウンロード型)を創始したのはAudibleである。この会社は、1995年に創業し、同じ年にデジタル・オーディオプレーヤーの生産を開始した。iPod登場の4年前のことだが、独自のロービット・レートのAAフォーマットとWebサイトからダウンロード可能とするビジネスモデルとともに、画期的なものだった。最初は音楽業界にフォーカスし、もしかしたらNetflixのようになるチャンスもあったし、アップルに買収される機会もあった。

インターネット・バブル時代を経て、3億ドルでアマゾンに買収される2008年までのドラマは波乱に満ちている。いつかまとめてみたいが、アマゾンは、当初これをそのままアップルのデバイスに依存したコンテンツ事業として成長させた。Kindleと連携させたのも比較的最近のことだ。技術的にも人材的にも、ネットビジネスとしては、それだけ筋がよく、音楽から「言語出版」に転換したのは、創業者(ドナルド・カーツ)が出版・放送の両業界に近かったからだろう。ちなみにアマゾンとランダムハウスはかつてAudibleの株を5%ずつ保有していた。

アマゾンにとって、買収時点での課題は、この会社の潜在力を損なわないことと、Kindleという新しいプラットフォームを、それを包摂する形で構築することだったと思われる。これらの課題は、音声エージェント、スマートスピーカ(Alexa/Echo)において達成された。テクノロジーより顧客にフォーカスしたアマゾンのプラットフォーム戦略が、オーディオブック市場に生かされた例だが、それにはAudibleの存在と、それを生かし切ったアマゾンの慎重かつ賢明な統合手法が特筆されてよい。 (鎌田、11/16/2018)

  • オーディオブックについては、拙著『Kindleの十大発明』「第7章:メディアの誕生―音から声へ:AudibleとEcho」を参照。
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