メディア「読書欄」の変容と復活 (1)

NYT BR_cover米国の主要メディアが競って「読書欄」を拡張している。本の市場が急に活性化したわけではない。それどころか、景気も出版も停滞し、余暇の読書は減少し、フィクションは売れない。暗い気分が広がっているのだが、これはどう考えたらよいのだろうか。コロムビア大学の評論誌CJR (12/03)では、ライターのサム・アイクナー氏が考察している。

書店での低迷する本がメディアを席巻する不思議 !?

book-reviews過去12ヵ月、新聞、雑誌、Webも含めて、米国の活字出版物では、本に関する記事が目立って増えてきた。ニューヨークは出版の中心で、もともと読書欄は充実しており、本や出版に関する情報は事欠かないと思えるが、それでも編集者たちは「足りない」と感じたらしい。ニューヨーク誌などを発行する老舗のNew York Mediaでは紙面を3倍 (!)にし、すべての定期刊行物にわたって「強化」に取組む、と発表した。NYタイムズ紙でも2017年初めから、定評ある読書欄をさらに強化している。月刊誌The Atlanticも、読書欄を拡充しただけでなく、週刊ニューズレターを発刊した。タイムズとアトランティックの発行部数は全体として伸びており、本への回帰が経営的にも成功したことを示している。

この傾向は「ソーシャル時代のメディア」を標榜する BuzzFeedも例外ではない。先月オンライン・ブッククラブを立上げ、ニューズレターとFacebookページを開設している。ジャーナリストやメディアはこの「現象」に注目し、意味を見出そうとしている。

出版とメディアとの関係が変わった

BK_NYMかつて、出版におけるメディアの重要な役割は、「ベストセラー」と「書評=推薦」であった。前者は書店、後者は著者・出版社との特別な関係によって更新されてきたが、その特権的な関係は、Webとともに維持困難になった。

「ベストセラー」を発展させたAmazon Chartsは、伝統的な書店ベストセラーを風化させ、いま何が「売れている」かだけでなく、デジタルによって知り得た「読まれている本」を共有した。出版社は「独自の新しい関係」を模索するしかなくなった。2017年が転機になったのはそのためだ。

しかし、筆者にも予想外だったが、メディアは新しい挑戦を前向きに受け止め、歴史的転換に成功したようだ。NYMはメディア横断的な「ブック・エディター」にボリス・カチカ氏(写真上)を充て、有力刊行物(Vulture, The Cut, Daily Intelligencer, The Strategist, Grub Stree)での独自の取組みを総括している。例えば、The Cutは本からの「抜粋」が充実しており、また、忘れられた女流作家をエッセイストがシリーズで追う。記事にした本を中心に扱うブッククラブもある。

PamelaPaulタイムズ紙は、経済面、文化面、それに有名なNYT Book Reviewの3つに分かれていた「本」の扱いを、統括編集長パメラ・ポール氏(写真下)の下に一元化することにした。これは独自の出版・読書専門誌でもあるBRの戦略的価値を再発見し、ポジションを高めたことになる。ポール氏は、「かつては本自体の価値を問題としていたが、いまは社会的意味を重視するようになった」と語っている。筆者は、これが読書空間の「ゲートキーパー」から、出版空間の「オブザーバー」という(本来あるべき)ジャーナリズム的立場への転換であることを期待している。 (鎌田、12/06/2018)

参考記事

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