アマゾンのベストセラー工場

マーク・サリヴァン氏については、米国在住の「作家+」渡辺由香里さんが昨年8月 FINDERSというWebメディアの連載で、インタビューをもとに書いていた。流石に、アマゾンがどういう出版社(編集方針)なのかに注目して的確にまとめている。筆者なりにポイントを整理してみた。

デジタル・ファーストの本づくり

  • ‘Beneath A Scarlet Sky’は、40代の中堅ミステリ作家が、主人公のモデルになったイタリア人と出会い、彼の回想を共有したことから生まれた。それが「実話に基づいたフィクション」として生まれるまでに10年を費やしている。
  • プロット中心で、文芸的描写がないシンプルな内容から「読者の感情に直接訴えかける」作品をつくるために、アマゾン出版社からは「親身になって指導」してもらった。
  • アマゾン出版社は傾向が明確で、印刷本ではチャネルが制約され、したがって利点と欠点がある。ネットでの露出が多くなる半面、書店や図書館からは嫌われているので、目立たなくなる。
  • アマゾンの定額制サービスなどで無料購読で読まれることで評価が得られれば、著者の収入と販促につながり、結果として販売数も上がる。映画化が決まり、一般ベストセラーにも登場した。
  • Kindleから印刷本オンライン、オーディオブックでベースをつくり、1年以上かけて一般書店やメディアの素材にしていったが、これは在来出版社のマーケティングとは大きく違っている。
  • 著者自身は、今後も執筆・出版スタイルは変えず、歴史小説などでアマゾンとも付き合っていく意向。

出版ビジネスは多様化した

「実話に基づいた感動のフィクション」は周知の通り、日本でも数多い。プロット中心の映画的な作品は映画化されやすい。サリヴァン氏自身は、むしろ生真面目で嘘っぽい感動などを避けてきた、地味で好感の持てる人物なのだが、自分を売り出すマーケティングのセンスはなかった。(写真=サリヴァン氏と「主人公」ジュセッペ・レッラ氏)

その彼がついに成功を得たのは、ジェームズ・パタースンの「ベストセラー製造工場」で共著者として「多くのことを」教わり、アマゾン出版編集者からも「指導」を受けた謙虚さと努力がベストセラーとして結実したものと思われる。アマゾン出版は「売れる商品」を売る、オーソドックスな販売第一主義だが、プロフェッショナルとしてのレベルは高いようだ。読者は感動を求めるが、安物と本物を見分ける目は厳しい。説得力のあるプロットから「感動」を紡いでいく流れは、ベストセラーから映画の大ヒットとなった、SF作家のアンディ・ウィアー(『火星の人』2014)を想い出される。これは、KDPからランダムハウス社が発見して成功した例だが、もともと「小説」よりも「映画脚本」に向いていたことが証明された。

人間の頭の中に浮かび、「表現」された言葉から生まれる「本」には無限ともいえる可能性がある。それは人が(読み、聴き、観ることで)「体験」を共有するものだからだ。「体験」されるものが「本」として商品化され、成功し、人に知られて広がる、という形はそう多くない。読まれる→評価されるという部分で高いハードルがあるからだ。アマゾンは最もコストがかかるそのプロセスをWebで変えた。この方法は伝統的な出版コミュニケーションよりも合理性があり、失敗が少ない(というより失敗が無駄にならない)ので汎用性がある。

プライドが邪魔していた在来出版社も、インディーズ作家も、出版を続けるためにはリスクの大きい方法を変えていくだろう。出版者は読者を自分たちの伝統的スタイルに従わせるまでの力はないが、読者に合ったフォーマット、価格、チャネル、販促方法を開発するテクノロジーは無数に利用でき、読者を資産とすることが出来る。 (鎌田、01/23/2019)

本稿は、E-Book 2.0 Forumに書いた下記の記事を補足するものです。WSJのジェフリー・トラクテンバーグ記者の「業界勢力図を塗り替えるアマゾンの書籍出版」については、原文リンクをご参照ください。

なお、Forum のほうは再始動の準備が整いつつあり、順次更新されています。本記事のフォローアップなどはForumで行いますので、議論に期待しています。

参考記事

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