戦略ノート:(1)著者と出版社の戦略

出版(共有)に対して淘汰圧が働く21世紀の社会では、出版社も個人もアイデアやストーリーをじっくり温めることが困難になってきた。クリエイターほどそれを敏感に感じている。出版社はそのことに鈍感であったか、あるいはそう振舞おうとしてきた。大手ほどそうなる。しかし、そうしたスタイルは永久に通用しないのかもしれない。

出版とコミュニケーションのデジタル転換

クリエイターは、アイデアの商品化、プロモーション、パートナー選びなどを自分で考える。あるいはそういう人ほど成功する。出版社は、本の作り方と売り方について保守的に過ぎるし、それ以外のことを知らなさすぎるからである。出版社は、時代の変化に保守的に(安全第一で)対応しようとするが、安全第一ほど道は狭くなっていることを忘れている。なによりもクリエイター(あるいは「冒険」以外に選択肢がない人)と離れてしまう。それがこの10年に米国の出版市場で起きたことである。結果的に、在来出版の市場は縮小し、平均的職業作家は没落した。成功したクリエイターたちは成功した方法を洗練させ、ビジネスモデル化するか、あるいは生活を楽しむかを選択できる立場に到達した。

在来出版と旧職業作家に対比される存在として、自主出版あるいはインディーズ出版は登場した。アマゾンは後者にも(出版社と同じく)7割の版権料を与え、著者の選択を明確にした。したがって著者は、(a) KDP Selectで7割を得るか、(b) 不特定のパートナーとシェアするか(インディーズ)、(c) それとも出版を専門会社(出版社)に委ねて3割(以下)を得るかを選べるようになった。アマゾン出版は、(d)独自の出版契約による第4の選択肢を提供しているが、これはアマゾンの出版したい本に限られる。

TAGのレポートにあるように、出版社お任せ型の職業作家の没落は急速だ。大出版社は利己的なサバイバル戦略をとり、中小出版社は、利益機会の縮小により、生存自体が危うくなっているからだ。こうして著者一人ひとりのサバイバル戦略が求められるようになってきた。出版が成功するかどうかを左右する要因は一つや二つではないが、基本的に読者(オーディエンス)が基本となるということだ。著者やその本について知っている、期待する人が多ければ、成功の確率は高くなり、それがなければ低くなる。このオーディエンス形成は、Webのアクセスよりも簡単ではないが、その分「資産」としての安定性を持つ。

必要性・持続性・価値

本誌では、今後「出版における戦略」について、テクノロジー、テクニック、ビジネスの観点から検討していきたいと思うが、戦略とは必要(従来と違うアプローチ)、テクノロジー(利用可能な手段)、持続性(創造性と顧客価値)がある時に、それを実現するために構築されるものだ。筆者はほとんど半世紀近く前、日本エディタースクールの「出版・編集技術」で勉強した経験がある。出版業界には入らなかったが、その技術知識は、多少とも「文字コミュニケーション」を必要とするあらゆる世界で役立ってきた。いま筆者が考えているのは、21世紀の「出版技術」の土台を(誰かが)同定することだ。

出発点は以下のようなこととなろう。

  • 出版とは「著者と読者のコミュニケーション」であり、その目的や性格(商業性、社会性)によって様々な形態をとること(商業出版はその選択肢に過ぎない)。
  • 社会的存在である出版・著者・読者とそれらの関係は20世紀末に大きく変わり始め、落ち着く先は不明だが、変わることだけは不変だ。
  • 社会にコミュニケーションの必要がある限り、選択可能な技術とスキルの探求は必要で、「職業としての出版」は社会をリードする機能である。
  • 著者とはコンテンツに対する関わり、出版とはコンテンツを通じた社会との関わりを指す。

(鎌田、01/24/2019)

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