“Think Different”の時

2018年11月19日、出版取次大手のトーハン、日販が物流協業に関する検討を開始すると発表した。ピーク時の半分にまで縮小しつつある中で「出版物流網の維持」が目標とされ、ゴールが「プロダクトアウトからマーケットインを目指した抜本的な流通改革」として示されているが、そうなじみがあるわけでない述語から考えてみたい。

バブルの最後の残り香:プロダクトかマーケットか

プロダクトアウト/マーケットイン」(PO/MIと略記)は、Wikipedia日本語版によれば「日本で生まれた抽象概念」とされており、それとなく取扱注意語であることを示唆している。一定期間にわたって使われているが、定義(理解)が不完全で内容的に共有されず、意味が確定する可能性が低いということだ。「義理か人情か」や「仕事か家庭か」とか、コンテクストが曖昧の「議論」の典型だと思われるが、なぜ出版流通で、なぜ取次が、と問われている時に理解が得られるスローガンではないだろう。1997年のアップルが採用した "Think Different" のほうが適切と思うのだが。

「PO/MI」論は、1980年代の日本の製造業で「作っても売れない」反省から、「消費者ニーズ」に対応する重要性を説く際に使われた。バブルの空気が感じられるものだ。あくまで「姿勢」で、市場ニーズを発見する方法や開発戦略、革新的な販売戦略や方法論、手法の提案、事例研究がなかった。こういう出発点から水掛け論を始めるのが日本的論争の特徴だが、メディアは話題として消費し、高給取りの時間を浪費させることになる。「失われた10年」に気づいてから「作りたいもの、作れるもの」が強調され、21世紀に入って「日本企業にiPhoneが作れなかったのはPOがないからだ」という議論となった。「決着」が着かないのは言うまでもない。

重要なのは消費者の "This is It!"という声

「プロダクトかマーケットか」は、それらの枠組が少なくとも農業くらい安定していた時代に生まれた発想で、"Think Different" は、そうした枠組から外れることを目ざしたスティーブ・ジョブズによって実現された。彼はPOを選択したのではなく、両方を同時に創造した。「市場」ではなく「消費者」が望んでいた時に。天才が枠組みを拒否するのは当然で、だからこそ天才なのだ。しかし、"This Is It"(まさに、これだ!)と言うのは消費者だけだ。デジタルによって技術の境界が溶解する20世紀末から、「プロダクトかマーケットか」は、「選択と集中」とともに大企業を弱める発想の源泉となったのではないかと思う。

さて、取次の皆さんは「出版においてプロダクトは(出版社の)本、マーケットは書店」と考えておられるのだろう。しかし、こういう枠組は安定しているだろうか。むしろ衰退しているのではないか。本も書店も減少しているのは、消費者から見放され始めている可能性すらある。だとすれば「PO/MI」は有効とは言えないだろう。流通統合は、物流量の減少の対応にはなっても、印刷本の書店販売という市場(チャネル)の衰退という世界的問題に答えていないからだ。

出版(「著者と読者の間で付加価値を提供する存在の一つ」とアマゾンは定義した)における取次の存在意義を提起できなければ、流通網の維持という当面の課題は持続的な価値を持たないだろう。Web時代に、「著者と読者」はもはや出版のステークホルダーとなりつつある。アマゾンは、在来出版の要素であった書店、取次、出版、印刷、配送のすべてを、企業、著者と読者を含むすべての顧客に提供する体制を構築しつつある。専門物流の価値は市場に最適化していることだが、出版市場の変化を見ない「専門」は価値を減衰するだろう。 (鎌田、01/28/2019)

Send to Kindle

Speak Your Mind

*

Scroll Up