米国「著者出版」の10年と出版ビジネス

自主出版の10年を回顧して、GoodeReader (02/20)のマーシー・ピルキントン編集長が「出版契約の夢は死んだのか?」という興味深い記事を書いているので紹介してみたい。こういうタイトルが、出版コンサルタントとして活動する同氏から浮かぶとすれば軽いことではないだろう。21世紀に出版社とは何か。それはどうもおカネではないようだ。

自立した著者

自主出版は、将来ある著者にとって「死の接吻」「狂気の沙汰」とまで呼ばれた「自費出版」 (vanity publishing)から自己を区別するという苦闘の中から出発し、デジタルとWebによって新しい場所を確保した、という書き出しから、話は始まる。欧米社会の「本/出版」の社会的地位は特別なもので、クリエイター、キュレーター、プロデューサーである専門家の協力/仲介を経ずに公開 (publish)することは、「将来を失う」とまで警告されたのだ。今日では、最初の1冊をインディーズで出版して最低の収入と読者を確保し、「道」をその先で決めるのは、合理的な選択として出版社からも推奨されている。プロを目指すのに、まず出版契約(+前渡金)を得ようなどというのは「夢」だから、もっと堅実に…というのが業界の常識となった。

そこまでを振り返ると、アマンダ・ホッキングとヒュー・ハウィという二人のデジタル・デビュー作家の事例があった。前者はE-Bookで最初のミリオンセラーを記録した後、作家活動に専念するために大手出版社と契約し、在来出版作家(というのも変だが)となった。同じくベストセラーSFでデビューしたハウィ氏は、出版社からの提示を受けたものの、出版社の必要性を認めず、自らプロフェッショナルのチームをリードしている。彼の出版社への返事は、ピルキントン氏によれば、「僕の本の出版社となるのに、いったい幾ら払うつもりなのかな」というようなものだったらしい。ゼロからステイタスを築いた出版社にとっては「夢」はその程度のものに落ちたのだ。

出版社、エージェント…と著者

潮目はまた変わっている。Red Sofa Literaryのエージェント、アン・ティベット氏の最近のブログは、成功した自主出版作家を称賛しつつ、自分としてはその作品を扱わない、と述べている。大出版社の注目を惹く最低単位は10万部以上であり、それに相応しいものとするために、インディーズ版は、徹底的に手直しされる。丹念にチェックされ、表紙もつくり直す。それでも著作権を渡す気があるならば、ということだ。アマゾンKDP (Select)で10万部を販売すれば、30万ドル以上の収入になるが、出版社では15万ドルくらいにしかならないだろう。出版社の優位は、海外版権、オーディオ版、映画化権などの可能性がある場合だ。そこまでいけば、プロフェッショナルのマーケティング・チームが必要になる。

ティベット氏は、出版契約を求める人へのアドバイスとして、インディーズ版と無関係の完全な新作を出版社の分野カテゴリやワード数などの要件に書き、照会エージェントを通して提出すること、と述べている。だが、残念ながら(とピルキントン氏は言う)それは昔ながらのやり方だ。著者はすでに一定の読者と収入という現実的可能性を得た。それはWebが「著者/読者」を引合わせ、アマゾンなどが「版=紙」に依存しないモデルを確立した結果だ。筆者はこれが21世紀の出版の出発点であると思う。デジタルを使った創造的表現とコミュニケーションは、2020年代から発展の時代を迎えるだろう。出版社が著者/読者にとって価値ある存在として再確立するのはこれからだ。 (鎌田、02/21/2019)

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