オープンソースの世界を聴く(1)

オーディオブック(聴く読書)の世界は、誰にとっても広く、深く、そして楽しいものだが、それをWebで最も簡単に知っていただくため、おカネをかけずに愉しむ方法を探り、共有してみたいと思う。オーディオブックはWebで広がったものだし、Webは誰もが遠い世界を知り、体験するためにあるものだからだ。それは紙の本よりずっと身近なところにある。

LibriVox:音声版世界図書館

本には売れること以外に「読まれ/共有される」という重要な価値がある。それは活字本でもオーディオブックでも同じだ。E-Bookで青空文庫やプロジェクト・グ―テンベルクがあるように、オーディオでも、ボランティアによるパブリック・コンテンツがある。2005年に米国で生まれたLibriVoxは、2018年末で 12,481 タイトルを数えている。

LibriVox(ラテン語で「声の本」)は、『本の未来』(2012)の編者としても知られるオープン・コンテンツのアクティビスト、ヒュー・マクガイアが提唱したボランティアのグループの「ポッドキャストを使ってパブリックドメイン本に生命を吹き込むことが出来るか?」という実験から始まった。最初の音声化作品は、ジョセフ・コンラッドの名作『密偵』で、以来約14年で毎月100本あまりを更新している。筆者の印象では、平均的に、ナレーションは「良・可」、音質は「可」のレベルが多いが、ボランティアとしては評価しないわけにはいかない。

マクガイア氏はカナダのモントリオール在住で、LibriVoxも北米の多文化混淆的環境を背景にしていると思われる。2010年に2万ドルほどの基金を集めてホスティング環境を整備し、以後毎年5000ドルあまりの運営予算を確保しているようだ。同趣旨の団体として、Project GutenbergとInternet Archiveと提携関係にある。参加者は録音済コンテンツをLibriVoxに申請、審査、登録されることでタイトルが配信される。ファイルフォーマットはフリーOggVorbis (.ogg)をベースとし、そこから MP3、iTunesなどで利用される。

作品の90%あまりは英語録音だが、仏、独、中国語録音などもあり、ボランティアの構成によっては多国語音声のカタログも充実する可能性がある。ナレータはボランティア(原文に忠実などの基準を満たしていれば来る者拒まず)で、プロフェッショナルとはおのずと違うが、誰でも参加できるものとしての意味はあるだろう。

古代ギリシャ語で響く「イーリアス」

LibriVoxのコンセプトは「世界中のボランティアが読む、無償PDオーディオブック」で、版権問題のない書籍コンテンツを (1) 誰でも朗読に参加できる、(2) 装置を選ばず、無償で聴く(録音する)ことが出来る、ことである。例えばホメーロスのイーリアスなどは、古典ギリシャ語版も、ラテン語など各国語訳とともに聴くことが出来る。再生速度を調整すれば「自然」な朗読として聴くことが出来るし、節をつけて詠える人もいるはずだ。未知の言語の古典詩鑑賞は単純に面白く、楽しい。いや美しいとも感じられる。

LibriVoxの多国語コレクションはまだ十分ではなく、言語、翻訳/朗読で様々な組合せがあるので、揃えるのは相当な時間が必要となるだろう。しかし、公的文化機関(図書館や文化庁など)が「模範的」な朗読版を整備する意味はある。おそらく、中国などは「音声版古典全集」を整備するだろう。音声版の整備は、文字版のAIによる音訳と直結される。 (鎌田、04/09/2019)

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