出版とビジネスの「ストーリー」

最近、Webのマーケティングでは「ストーリー」の重要性が強調されている。ブランド、商品、サービスの優秀性やお得感を訴求するだけでは差別化が困難なので、何かしら消費者の共感あるいはUXを呼ぶ「ストーリー」を消費者と共有することが、企業の価値を高めるためだ。[♥会員記事=GW特別公開 5/12まで]

人と情報を結びつける力「ストーリー」

アップルやスターバックスのUXは、「地球温暖化対策」や「サステナビリティ」を、スローガンや金銭だけでなく、本業と結びつけて「ストーリー」化することで成果を上げている。オンラインな環境では、よきにつけ悪しきにつけ、UXが影響を受ける機会は案外多い。アップルのような、創業者スティーブ・ジョブズの「大きな物語」が幅広く知られている企業でさえ、イメージの危機は突然訪れ、リーダーはすべてのステークホルダーと「ストーリー」を再確認して立ち向かう。

「ストーリー」とは何だろう?それは、基本的に話のコンテクスト(5W1H)に一貫した意味を与えるものだ。話者のコンテクストの説明 (account)である。もっともだ、と信用されるのがよい「ストーリー」で、それができなければ、いかに真実でも、おカネをかけても失敗となる。

小説、童話、悲劇、歴史、伝記、神話、回想から、論文、レポート、ニュースなど、およそものごとのコンテクストを共有するための創作物は、すべて「ストーリー」に含まれる。放送番組も本の出版も、共有のために行われる。メディアのビジネスはすべて「ストーリー」に連なっている。「出版」はその中で特別な位置を占めてきた。あらゆるものごとのコミュニケーションにおける真実性と共感性の共有に関わるからだ。

「社会」とコミュニケーションは「ストーリー」の共有で成立っており、個人もそれに取り巻かれている。それらは「知識」と「情感」が混在し、主観的な「体験」の一部となる。非対称性(あるいはピラミッド構造)のメディア世界の中で、共有=出版を可能にしたWebにおいて「ソーシャル」というパラダイムが生まれ、それが「パブリッシング」に及んだのは自然なことだった。これは、宗教戦争を引き起こしたと言われるグーテンベルク革命以来の衝撃を世界に与えても不思議ではない。

版を配布する伝統的な「出版」が、Webのソーシャルと出会うことは避けられず、「ストーリー」の共有におけるミスマッチが生じる。メディアとしての性格はもとより、費用負担、ステークホルダー、配布形態、ビジネスモデルなど、ストーリー(としてのコンテクスト)に影響を与える複雑な外部関係が、二層構造を形成するためである。しかし、問題の解決や調整はWebで行われるしかない。ストーリーのUXを計測する方法は、Webにしかないからだ。

Wattpadにおける「ストーリー」形成

Wattpadが「物語り」においてやったことは、「物語り」を共有するためのプラットフォームを構築し、クリエイターやビジネスが「共感」データを共有できることにしたことであると思われる。それは例えば、自社をはじめ、コンテンツ企業やクリエイター、その他一般企業のストーリー戦略に利用できる。どのようなクラスタに対して、どのようなストーリー戦略が有効か、判断するために使われるだろう。

ストーリーは、かつてのように、特定の媒体に閉じられたものではなく、複数のチャネルで展開され、反応を集約し、修正するものとなるだろう。出版におけるWattpadは、コンテンツ・ビジネスを志向しているというよりは、アマゾンのように、サービス・プラットフォームを顧客に開放するためのものだと思われる。

Wattpadの「ストーリー」プラットフォームが6500万人に共有されたのは、それが著者=読者のコミュニケーションをサポートし、ストーリーや出版に参加し、成功に貢献したい人々を生み出したためだ。つまり読者=編集者でもある。こういうプロセスの運営は簡単なことではない。しかし、参加型の「ストーリー」はこれから増えていくだろう。中国の歴史小説や空想歴史小説のバージョンが尽きないのは、物語りにその力があるからだ。フェイクの「ニュース」よりフィクションの「ストーリー」が心をつなぐものとなる時代だ。 (鎌田、04/25/2019)

参考記事

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