コリンズの新作は「失われる前の世界」

「物語り」には「始まりと終わり」があるが、インパクトが大きい物語には「前篇」や「続篇」を付けて時間的に拡張することがある。『ハンガー・ゲームズ三部作』で全世界1億冊以上という記録を樹立したスーザン・コリンズとスカラスティック社は、来年5月19日に「前篇」を出版すると発表した。他方、傑作映画『シャイニング』の、原作者による続編も11月8日に米国で公開される。

1億冊を売った21世紀最初の「物語り」

「物語り」には、終わりも始まりもなく、書き手/読み手しだいだ。スティーブン・キングは、原作(1977)を変えたS.キューブリック監督の記念碑的映画 (1980)に納得がいかず、2013年に続篇を出版し、こちらもブラム・ストーカー賞を受賞した。そちらの映画版も今年公開される。メディアと表現の「ねじれ」も面白い。

キングとともに物語の達人として知られるスーザン・コリンズは今回、ディストピア以前の「パネム」を書いた。「ゲーム」以前に書いていたら、どちらも売れていなかった可能性が強い。やはり名人は時代と「順序」を間違えない。コリンズは、ベトナム戦争で父親を失った体験があり、とくに「失われる前の世界」に強い思いがあったようだ。困ったことだが、いまの時代はフィクションに近づいており、エンターテインメントとしては読まれないだろう。

変わった出版界、読者はどう迎えるか

コリンズの驚異的なヒットは、E-Bookが大きく影響したと言われた。逆に青少年を中心に、Kindleの普及にも大きく貢献したことは確実だ。出版/読書市場にも大きな影響があったことで「子供向け」や「類似盗作」が議論されたりもした。同一題材が無数にある「物語り」の必然だが、現在ではそうした議論はまったく消えている。やはり作家と原作に力があったということだ。そしてWeb時代の女流作家には、世界の青少年を惹きこむ強い「ストーリーテリング」の力があることも実証され、そちらは新しいビジネスを開拓した。

「暗黒時代」を描いた第1作 (2008)から12年を経た2020年に出版される新作(「無題のパネム小説」)は、あの「戦争」が世界を変える以前の「自然状態」を描くという。しかし、2008年に起きた「Kindle革命」で出版の世界は一変し、Webに対する旧出版の非創造的な抵抗で、この10年は筆者から見て「ディストピア」的世界が続いてきた。出版社はE-Bookを警戒するようになり、無名作家のメガヒットも消えた。出版社がこの10年を否定的に評価している声は聞かないが、2008-2010年は米国の出版界が最も若い世代の読者を取り込んだ時代であったことは確かだろう。そして出版の分裂は深まった。コリンズの新作は、最初からオーディオブックが重要なフォーマットとなるだろう。出版社は販売方法を考えているはずだ。

昨年の米国出版界は「フィクションの衰退」が言われた。新作は読者、出版社、書店ともに「待ちきれない」ものとなるはずだ。 (鎌田、06/20/2019)

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